万葉集その百九十五(雪が降る)

          
古代の人たちは雪が降ると大喜びしました。
なぜなら、雪は土地の精霊が豊作を予祝するために降らせた稲の花と
見立てられていたからです。

「 わが里に 大雪降れり大原の
    古りにし里に 降らまくは後(のち)」   巻2-103 天武天皇


( オ-ィ わが里に大雪が降ったぞ! そなたは今、大原に里帰りしているようだが
 その古ぼけた里に降るのはずっと後のことであろうなぁ )

この歌は天皇が側室の藤原夫人(ぶにん)贈られたもので万葉集で雪を詠んだ
最初のものとされています。

「大雪、大原、降れり、古りにし、降らまく」と、その弾むような調子は喜びに
溢れているようです。

お二人共に仲睦まじく、気心が通じ合っていただけに、天皇もつい、からかいたく
なられたのでしょう。
夫人の実家大原(明日香村小原)と天皇の住居である飛鳥、浄御原(きよみがはら)宮とは
500mも離れていないのに、「お前の住む大原は古ぼけた田舎の里」と
揶揄されています。

聡明な夫人は、たちまち反撃開始です。

「 わが岡の おかみに言ひて降らしめし
   雪の砕けし そこに散りけむ 」    巻2-104 藤原夫人


( 帝はそうおっしゃいますが、恐れながらこの雪は私が岡の水の神に言いつけて
降らせたものでございますよ。
その雪のかけらがそちらに散ったのでございましょう)

藤原氏は先祖中臣氏以来、宮廷に伝わる聖なる水の信仰を管理する家柄で

「 雪をも司る水の神、竜神の本家はこちらでございますよ。
ご自慢なさるのはおかしいわ 」と 

天皇の「里」に対して「岡」 「大雪」に対して「雪の砕けし」 
「降る」に対して「散る」と機知あふれる応対をされたわけです。

この歌を受け取った天皇は「 夫人もやるわい 参った 参った」と
破顔一笑だったことでしょう。 

「 太郎を眠らせ 太郎の屋根に雪降りつむ
  次郎を眠らせ 次郎の屋根に雪降りつむ 」  (三好達治 雪より)


しんしんと降り続く雪。
暖かい家の中では太郎も次郎も“すやすや”と眠っています。
じっと寝顔を見守る母親。
他の家庭の三郎、四郎、五郎、そして日本中、世界中の子ども達も- - 。

明日の朝、子どもたちは一面の銀世界に歓喜の声を上げることでしょう。
いにしえの雪が幸せをもたらす「しるし」とされたように今日降る雪が
来るべき年のよき予兆でありますように。   
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by uqrx74fd | 2009-03-08 12:55 | 生活

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