万葉集その百八十一(葛)

「くず」は元々「くずかづら」とよばれていました。

その昔、奈良県吉野山近くに国栖(くず)という村があり、村人たちが
葛の根を掘って澱粉を採り、諸国に売り歩いたのでその地名が
植物名になったといわれています。

秋の七草の一つとされ、萩に似た紫色の小花を咲かせますが、その地下茎は
何十メートルにも広がり、中には人間の大腿ほどの巨大な根を持つものも
見られるほどの旺盛な生命力の持ち主です。


「 真葛原(まくづはら) 靡く秋風吹くごとに
    阿太の大野の萩の花散る 」  
             巻10-2096   柿本人麻呂歌集


( 広大な秋の野一面に生い茂る葛と萩。
 秋風が吹くたびに靡く葛の葉はまるで白波が立っているようです。
 そして波に流されてゆくように ほろほろと散る萩の花。)

    阿太:奈良県五条市 大野:原野

葛の葉は大きく、また裏が白いので風が吹くたびに波立つように見えます。
それに呼応するかのように右に左に揺れては花を散らす萩。
雄大な景色の中にも風情がある万葉秀歌の一首です。

「 我がやどの葛葉日に異(け)に色づきぬ
     来まさぬ君は何心ぞも 」  
              巻10-2295  作者未詳



( 我家の庭の葛の葉は日増しに色づいてきました。
 それなのにこんなに長くおいでにならない貴方!
  一体どんなお気持なのでしょうねぇ )

日増しに紅葉する葛の葉が音沙汰のない恋人を待つ者の焦燥感をかきたてています。
焦燥感はやがて諦めの気持へ - -。

平安時代になると葛葉は裏が見える(裏見)と恨みを掛け

「 秋風の吹きうらがへす葛の葉の
     うらみてもなほうらめしきかな 」 ( 平貞文 : 古今和歌集)


 などと詠われるようになります。

伝説によると昔々葛の名所、信太(しのだ:大阪泉市)で一匹の狐が
安倍保名(やすな)という人物に命を助けられました。

感激した狐は「葛の葉」と名乗る絶世の美女に変身し保名と結ばれて
子供を生みます。
ところがある日、子にその正体を見られ恥じた狐は

「 恋しくば 尋ねきて見よ和泉なる
            信太(しのだ)の森のうらみ葛の葉 」     


と歌を残して去りました。

そこで子は父と共に森を尋ね、母(狐)から秘符と名玉を与えられます。
やがて子供は成長し母から与えられた験力で高名な陰陽師(おんみょうじ)
安倍晴明になったそうです。

この説話は古浄瑠璃「信太妻」に採り上げられ、さらに人形浄瑠璃、
歌舞伎でも演じられるようになりました。

「 様とわしとは焼野の葛(かづら)
         蔓は切れても根は切れぬ 」    (古歌)

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by uqrx74fd | 2009-03-08 12:41 | 植物

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