万葉集その百七十八(萩)

「ハギ」という名は「生芽(はえぎ)」が転じたもので初夏のころ古株から
勢いよく新芽を出すことに由来するそうです。

「萩」の文献での初見は「播磨国風土記」(713年頃)での「萩原里」で、
その昔神功皇后がこの地に滞在したとき、一夜のうちに萩が一本生え出て
3mばかりになり、その後そこに多くの萩が咲き乱れたことによる地名と
されています。

万葉集では「萩」という字はまだ見えず「芽子」「芽」が当てられています。
「草冠に秋」すなわち秋を代表する花として「萩」という国字が定着したのは
平安時代からです。

「 この夕 (ゆうへ) 秋風吹きぬ白露に
     争ふ萩の明日咲かむ見む 」  
              巻10-2102  作者未詳


( 秋風が吹き始めてきました。萩の上の白露が早く咲け、早く咲けと
 促しているようです。明日には花が咲くかな。見るのが楽しみだね )

しなやかに弓なりになった萩の枝葉に置かれた白露は夕日を受けて
宝石のようにきらめいています。 
そこへ一陣の秋風。ハラハラと散り落ちる白玉。

「争う」とは「萩がまだ開花には早い」と抵抗するさまをいいます。
まるで可憐な乙女が恥じらいを見せているようです。

「 さ額田の野辺(のへ)の秋萩 時なれば
     今盛りなり折りてかざさむ 」 
                  巻10-2106 作者未詳


( 額田の野原の萩は今が見時で真っ盛りです。
 さぁさぁ、お花見です。
 萩の花を手折って挿頭(かざし)にしましょう。)

大自然の原野。紫の花をたわわに付けたしなやかな枝。
古の人達は今が盛りの花の生命力を自分達に分けてもらうことを願い、
手折って頭に挿しました。

「さ額田」:「さ」は褒め言葉で額田は奈良県大和郡山市

秋のある雨の日。家の庭一面に咲いている萩は雨の重さで正体もなく
うつ伏せとなってしまい、玄関につながる道が見えなくなっています。

そこへ着物姿の楚々とした夫人が訪れました。

「 道は通れません。どうするかと思いました。
そのかたは蛇の目を拡げてそれを横へ倒すと自分はしおしおと
濡れながら、たわわな萩の花を傘で軽く押しやります。

そしてその傘を緩く車のように廻しながら、敷石を一歩一歩と行きます。
行くにつれて傘はくるりくるりと廻り、濡れた萩は揺れて順々に
起きたり返ったりして道を明けます。

ほうっと息の出てしまうみごとなことでした。
花もきれい、傘もきれい、足も人もきれいと感じました 」

  ( 幸田文 おしゃれの四季 雨の萩より: 番茶菓子所収)


「 雨の庭 萩起し行く女かな 」  尾崎紅葉
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by uqrx74fd | 2009-03-08 12:38 | 植物

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