2009年 03月 08日
万葉集その百七十七(おみなへし)
この白露に散らまく惜しも 」
巻10-2115 作者未詳
( 手に取ると袖まで染まってしまいそうな美しいをみなへし。
白露のために散ってしまうなんて残念ですわ。ずっと見ていたいのに)
秋の気配が漂うのを待ちかねるように黄色い小花を咲かせる「をみなへし」は
「なでしこ」と共に楚々とした中にも芯がしっかりした美しい日本の女性に
見立てられてきました。
万葉集での「をみな(女)」には「佳人」「美人」「姫」「娘」など優雅で
奥ゆかしい字が当てられており当時の人の思い入れを感じさせます。
「 をみなへし 秋萩折れれ玉鉾(たまほこ)の
道行きづとに乞はむ子がため 」
巻8-1534 石川老夫(おきな)
( そうそうあの子が旅の土産に欲しいとせがんでいたなぁ。
そこの者、をみなへしや萩の花を手折っておいで。可愛い娘のために。)
旅の帰途、主人が傍らの従者に呼び掛けた歌のようです。
「づと」は「包む」と同源の語で「包み物」「贈り物」から「土産」の意。
「玉鉾」の「タマ」は霊魂 「ホコ」は三叉路や集落の入り口に魔よけや
行人の安全を守るために立てられた陽石(男根の形の石)で後に
道祖神や庚申塚につながったと言われています。
道には様々な邪霊や危険が満ちておりその為に「玉鉾」という呪的な道の
枕詞が生まれたようです。
「をみなへし」はその黄色い小花が「蒸した粟飯(あわめし)」(今のものでいえば
ブロッコリ-) のように見えます。
古代の女性は粟を主食にしていたため粟飯を「をんなめし」とよんでいました。
その「をんなめし」が花の名前に転訛したものといわれています。
つまり「をみな」=「をんな」 「へし」=「めし」です。
なお平安時代から「おみなへし」には「女郎花」の字が当てられるようになります。
「 名にめでて折れるばかりぞ女郎花
われ落ちにきと人に語るな 」 僧正遍照 (古今和歌集秋上)
(女郎花という名前に引かれて花を折り取っただけのことですよ。
女犯戒を破ったなんて噂を立てないで下さいよ。おみなへしさん )
詞書によると作者は女郎花を採ろうとして落馬したようです。
この歌での落ちるは落馬と堕落を掛けた洒落となっており、後代に
「牛に乗る嫁御落とすな女郎花」 其角 などと詠まれました。
この遍照の歌が後世に与えた影響は大きく、万葉時代の楚々とした
イメージの「をみなへし」は僧をも堕落させる妖しくも美しい女という
イメージに変化していきます。
「 女の香 放ちてその名 をみなへし」 稲垣きくの
by uqrx74fd | 2009-03-08 12:37 | 植物