万葉集その百七十六(荻の風、荻の声)


「 荻の葉のそよぐ音こそ秋風の
     人に知らるる はじめなりけり 」 紀貫之 (拾遺集)


荻(おぎ)には「風ききぐさ」という異名があります。
水辺に繁殖するその草は背丈が高く、細長い葉や茎は風に靡いて
さやさやと音を立てます。

それは秋の到来を告げる「荻の声」です。

「 葦辺なる荻の葉さやぎ秋風の
    吹き来るなへに雁鳴き渡る 」 巻10-2134 作者未詳


( 心地よい風が吹き、葦辺に生えている荻の葉が
  さやさやとそよいでいます。
  おぅ! 雁が鳴きながら空を飛んでゆくよ。いよいよ秋なんだなぁ。)

荻の葉音に秋の到来を感じ取り、葦、荻、雁と秋の景物を取り合わせた
万葉人の文学的な素養がしのばれる歌です。

さらに 「風の音、さやぐ荻の葉音、雁の声」と 心地よい音の三重奏。

「なへに」: 「~すると同時に」

「 神風(かむかぜ)の伊勢の浜荻折り伏せて
          旅寝やすらむ荒き浜辺(はまへ)に 」 

     巻4-500 碁壇越 (ごのだんおち) の妻


( 神風が吹くという波風が強い伊勢の浜辺。
あの方は今頃荻を折り敷いて野宿していることでしょうか。
どうかご無事で。)

作者は碁という名前の人物の妻で壇越とは僧に財物を施与する人を
いいます。
夫のつらい旅を思いやった優しい心情の女性です。

荻の用途はそれほど多くはありませんが 筵(むしろ)草履、屋根葺き、
箒などの生活必需品に加工されていました。

「 荻の葉にそそや秋風吹きぬなり
     こぼれやしぬる露の白玉 」 大江嘉言(よしとき)(詞花集)


『 「をぐ」という言葉は神または霊魂を招く意で霊魂を呼び醒す
  意味にも用いた。
  だから「をぎ」の名も霊魂に関係した信仰上の意味があったのだ。

 荻は神霊を招き降ろす、即ち「招(を)ぐ」ところの「招代 (をぎしろ)」である。
 そのそよぎに神の来臨の声を聞いたのである。

 また、荻がそよそよと揺れることを「そよ」「そそや」などと擬声語で
 現すことがある。
 その「そよ」「そそや」も神の告げを示す言葉である。 』

                (山本健吉: 基本季語500選より要約抜粋)

      「 荻の声 舟は人なき夕べ哉」 闌更(らんこう) 
[PR]

by uqrx74fd | 2009-03-08 12:36 | 植物

<< 万葉集その百七十七(おみなへし)    万葉集その百七十五(桃) >>