万葉集その百七十五(桃)


「 葉がくれに水密桃の臙脂かな 」 飯田蛇笏

桃の原産地は中国黄河地域とされ今から3千年前には
既に栽培されていたと言われています。

桃という字は「木」と「兆」から成り「兆」は「数が多い」の意から
「実が多く生る」あるいは「占いで亀甲を焼いてできる裂け目」の意から
「割れる、離れる」転じて「女性あるいはその性器」を意味するようになりました。

そういえば「桃太郎さん」も桃から生まれましたね。

「 大和の室生の毛桃 本(もと)繁く
        言ひてしものを成らずはやまじ 」 
              巻11-2834 作者未詳


( 大和室生の桃は木の幹からは多くの枝が茂り、
 きっと美味しい実をならせるだろう。
 俺様も心を込めてあの娘に繁々と話しかけ、
 一生懸命に口説いたのだから必ずこの恋を実らせてみせるぞ。)

「繁く」は「桃の木が盛んに育っていること」と「口繁く口説く」を掛けています。

古代日本で「モモ」とよんでいたものは中に硬い核(種)がある果物の総称で、
主として今の「ヤマモモ」をさしていた(牧野富太郎博士)そうです。

後に大陸から柔らかい毛が生えている果物が渡来し
それを「毛桃」と言い習わしていましたが、何時の間にか両者が混同され、
外来の「毛桃」を「モモ」とよぶようになり現在に至っております。

「 我がやどの毛桃の下に月夜(つくよ)さし
      下心(したごころ)よし うたてこのころ 」 
                      10-1889 作者未詳


( 我家の庭に月の光が射し込み、桃の実を美しく浮き上がらせています。
 なぜか何時もと違ってウキウキした気分。もう楽しくって楽しくって!)

この歌は比喩歌とされ「桃」は 大切に育てている娘 「月夜さし」は「月水」
すなわち娘の「初潮」、「下心」は自分の心の奥、「うたて」は「しきりに」で
日常と異なる奇妙な心理状態をいいます。

 つまり「大切に育ててきた娘が初潮を迎えどうやら女性として
 一人前になったようだ
 嬉しいやら 照れくさいやら。さぁさぁ身内のものに報告をしなくっては 」
 と母親が喜んではしゃいでいる歌なのです。
   
  「ただひとつ惜しみて置きし白桃(しろもも)の
       ゆたけきを吾(われ)は食ひをはりけり」 斉藤茂吉


日本の桃は江戸時代まであまり美味くなかったらしく栽培されていたのはもっぱら
花の観賞用でした。
日本でおいしい桃が食べられるようになったのは明治7~8年頃
中国大陸から天津水密桃(北シナ系、先が尖っている) や 
上海水密桃(中シナ系、丸桃) が輸入され、それらの
桃に品質改良が加えられてからのこととされています。

世界に冠たる「白桃」は明治32年岡山県可真(かま)村の果樹園で
上海水密の系統をひいた桃が日本の気候に適応し突然変異(自然雑種)して
生まれたものです。

「 しどけなき甘さとなれる白桃を
       食いて今年の夏もをはりぞ 」 石川不二子

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by uqrx74fd | 2009-03-08 12:35 | 植物

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