万葉集その百五十八(山吹の花)


 「 かはづ鳴く 神(かむ)なび川に影みえて
    今か咲くらむ山吹の花 」 
            巻8-1435  厚見 王


( 神がこもっておられる清々しい川で河鹿が鳴いています。
  今頃は美しい山吹がその影を川辺にきらめかせながら
 咲いていることでしょうか)

「神なび」とは「神隠(ナ)ビ」の意で奈良県飛鳥川または龍田川と
いわれています。
河鹿が清流で妙なる音楽を響かせ、きらめく風光の中で山吹の
黄色が川に映える。
川の流れと共にキラキラと光る様は、まさに神の住処にふさわしい
聖なる川を思わせる風景です。

「河鹿は山吹と共にいるものとしてうたわれた。
万葉集においてカハズの本字は「蝦(ガマ)」で、
冬の間は死んだように冬眠し、春がくると復活して恋の歌をうたう。
蝦は長命の動物として仙人の友となっているがここでは
その一族の河鹿が復活の生命を
現す動物としてうたわれたものであるまいか」

(土居光知著 古代伝説と文学より要約抜粋)

山吹の一重咲きは結実しますが八重咲は実がなりません。
その昔大田道灌が狩の途中、にわか雨に遭い田舎家で蓑を
借りようとしたところその家の娘が黙って一枝の山吹を差し出したが
その意味が分らなかった。後に

 「 七重八重花は咲けども山吹の 
        実の一つだになきぞ悲しき」 
                     兼明親王(後拾遺集)


実の=蓑と判明し大いに恥じ入ったという有名な故事。
万葉集では「実のならぬわが恋よ」と詠われています。

 「 花咲きて実はならねども長き日に
     思ほゆるかも山吹の花 」 
              巻10-1860 作者未詳


( 花が咲くだけで実はならないのは山吹と知っておりますが、
  それにしてもその花さえも咲くまでなんと長く掛かるのでしょう。)

作者は相手の承諾を得ながらも何らかの事情でなかなか
添えないようです。
花が咲き散る頃にはめでたく結ばれるのでしょうか。

 「 山吹のにほへる妹(いも)がはねず色の
     赤裳(あかも)の姿 夢(いめ)に見えつつ 」
               巻11-2786 作者未詳


( 美しい彼女の夢を見たよ。咲き匂う山吹のような艶やかな容姿。
 それに朱華色(はねず)色の長いドレスを着ていたなぁ。
 夢がさめてもまだ目の前がチラチラするよ )

黄金色、朱色と華やかな色彩感に溢れる歌です。
「はねず」は「唐棣」とも書かれ「ニワウメ」の古名とされ、
初夏にピンク掛かった赤い花を咲かせます。

  「 ほろほろと山吹ちるか瀧の音 」 芭蕉
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by uqrx74fd | 2009-03-08 12:18 | 植物

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