人気ブログランキング | 話題のタグを見る

万葉集その百四十(鎌倉)

「鎌倉」という地名は古くから使われており奈良時代の
「正倉院文書(相模国封土租交易帖)」に「鎌倉群鎌倉郷」とみえます。
 その名の由来は諸説ありますが、鎌は「鎌で切り取ったような崖」
倉は「深い谷」を表わす地形用語説が有力のようです。

 「 鎌倉の見越(みごし)の崎の岩崩(いはく)えの
      君が悔ゆべき心は持たじ」   
            巻14-3365 作者未詳


( 鎌倉見越ガ崎の崖はよく崩れる危険なところですが、
 私のあなたさまに対する想いは崖のように決して崩れるようなことはありません。
 「あの女め!心変わりしよって」とあなたさまが後々後悔なさるようなそんな
 不確かな心を私がもつものですか!)

鎌倉乙女が堅い恋心を誓っている歌です。
四つの「の」という「音」を重ねながら大地名、小地名、特定の場所へと運んでゆき、
さらに「崩(く)え」「悔(く)ゆ」の同音の調子が快く響きます。

見越の崎は現在の稲村ガ崎または腰越の崎といわれていますが、
崖崩れで知られていた山沿いの海岸でした。

また1333年、新田義貞がこの稲村ガ崎の岬から黄金造りの太刀を
海に投じて海神に祈り一挙に鎌倉北条幕府を打倒した故事でも知られており

「 七里が浜のいそ伝い 稲村ヶ崎 名将の 剣投ぜし古戦場 」
「文部省唱歌:鎌倉」にも歌われております。   (大和田建樹 作詞) 

 「 薪伐(こ)る 鎌倉山の木(こ)垂(だ)る木を
     松と汝(な)が云はば 恋ひつつやあらむ」 
                        巻14-3433 作者未詳


( 薪を伐る鎌、その鎌という名を持つ鎌倉山で木の枝が下に垂れるばかりに
 生い茂っています。この木を松―「待ってるわよ」とただ一言云ってくれれば
 こんなに恋焦がれの辛い思いをしないでもすむのに。 
 あなたという人はつれないなぁ。)

「まつ」は「待つ、松」を掛け「木垂る木」は男を暗示しています。
男の片思いを嘆いた歌ですが、
樵たちが「この木は松じゃないから彼女は待ってないよ」と周りで囃したてる民謡
ともいわれております。

「 かまくらや みほとけなれど釈迦牟尼は
           美男におはす夏木立かな 」   与謝野晶子


作者は阿弥陀仏を釈迦と間違えていますが「仏」を美男よんだ大胆な表現が
歴史的な価値となっている( 井上謙 文学探訪 )歌です。

 「 笹鳴きや鎌倉街道切通し 」  矢田邦子

                      註: 「笹鳴き」 冬に鳴く鶯の声 

by uqrx74fd | 2009-03-08 11:59 | 生活

<< 万葉集その百四十一(たまきはる)    万葉集その百三十九(巌:いはほ) >>