万葉集その百三十六(木綿の山)

九州別府市と大分郡湯布院町との境に聳え立つ由布岳(標高1,584m)は、
その昔「木綿の山(ゆふのやま)」とよばれていました。

木綿(ゆふ)とは楮(こうぞ)のことで、麓の村に楮の木が多数生育しており、
その皮を採り衣料や和紙にしたことが山名の由来とされております。(豊後風土記)

二峰の山頂をもつその端麗な姿は「豊後富士」ともよばれ古くから歌枕とされてきました。

「 娘子(をとめ)らが 放(はな)りの髪を 木綿の山
      雲なたなびき 家のあたり見む 」 
               巻7-1244 作者未詳


( 愛する人を残して山を越えて旅を続けてきました。
向こうをみると乙女のお下げ髪のような形をした木綿の山がみえます。
雲よ、妻の家のあたりを見たいから山の周りにたなびかないでおくれ )

「放りの髪」とは頭髪に二つのこぶを作りそこから垂らしたお下げ髪のことです。
8歳から15歳位の少女の髪型で結婚適齢期になると髪の後ろの裾を束ねて結います。

この歌では「木綿」と「結う(結婚する)」を掛けており作者は新婚早々と思われます。
木綿山の東西二つの峰が「放り髪」に見え、少女時代の妻を思い出したのでしょう。

「 思ひ出づる時はすべなみ豊国の
     木綿山雪の消ぬべく思ほゆ 」 
               巻10-2341 作者未詳


( あなたのことを思い出すと、これはもう、どうしょうもありません。
豊国(豊後)木綿山の雪と同じで自分も消え入らんばかりにあなたの事が思われます)

「すべなみ」;「すべなし」で「どうしょうもない」の意

南国木綿山の雪は降ってもすぐに消えてしまいます。
その「消えやすい雪」と「この世から消え死んでしまいそうなくらいに思いつめた」
気持を重ね合わせた一首です。

伝説によると由布岳、祖母山(1757m)は男性の山、鶴見岳(1375m)は女性の山で
三山はもともとお互いにくっつき合っていたそうです。
ところが由布岳と祖母山が同時に鶴見岳に恋をして、お互いに譲らぬ鞘当のはて、
地震、山崩れが起きました。

そこで鶴見岳は由布岳を容れて夫婦の契りをなしたところ突然熱いお湯を
噴出させたのが湯布院温泉はじまりと言い伝えられております。
熱いお湯は祖母山の涙だったのでしょうか?

万葉時代の湯布院は大分から大宰府に至る官道の重要な宿駅でもありました。

「 豊後富士おぼろの月をかかげたり 」  森山暁湖
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by uqrx74fd | 2009-03-08 11:55 | 自然

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