万葉集その百二十一(よせる波 かへす浪)

 「はるかの 遠い外洋から   波はよせ 波はかへし
 波は涯しらぬ 外洋にもどり   
 雪や霙(みぞれ)や 晴天や 億万の年を つかれもなく  
 波はよせ 波はかへし          
       (草野心平 :「絶景」より一部抜粋)


万葉の人々は実に様々な波を詠っています。
立つ波を神の業と恐れ、幾重にも重なって押し寄せてくる波を
五百重(いほへ)波、八百重(やほへ)波とよび、白波を木綿(ゆふ)花に見立てて
愛する人への土産にしたいと願い、
寄せる波、返す波を千々に乱れる恋心に例えました。

「 磯の浦に 来寄(きよ)る白波 返りつつ
     過ぎかてなくは  誰(た)れに たゆたへ 」 
             巻7-1389 作者未詳


( 磯の浦の白波が寄せては引き、引いては寄せていつまでも沖のほうに帰りません。
  私も波と同じで気持ちがあちらへ行ったり、こちらへ戻ったり。
  こんな気持ちになるのは他でもないお前さんのせいですよ)

磯の浦を女、白波を男に見立てて女性を口説いている歌です。

「当たって砕けて別れてみたが、未練でまた逢う岩と波(磯節)」

といったところでしょうか。

「 伏越(ふしこえ)ゆ 行かましものを まもらふに
     うち濡らさえぬ  波数(よ)まずして 」 
       巻7-1387 作者未詳


( 回り道をして伏越を通っていけばよかったのに、強引に磯辺の近道を進んで
 とうとう高波をもろにかぶってずぶ濡れになってしまったよ。
 間合いをちやんと計って、さっと通り抜ければよかったのにぐずぐずして--。)

伏越;土佐の国安芸説あるも未定
愛の告白をためらっている間に周囲の事情から恋が不首尾になったことを
嘆いている男の歌とも思われます。

「 住吉(すみのえ)の 岸の松が根 うちさらし
     寄せ来る波の 音のさやけさ 」  
           巻7-1159 作者未詳


( 住吉の岸の松の根を洗うように打ち寄せてくる白波
  波音のなんと清々しいことよ )

紺碧の空と海、粉のように美しい浜、寄せては返す五百重波。
松風が上空を吹き渡ってゆきます。

目を閉じると波の音、それは遠い遠い昔の思い出。

「 私の耳は 貝の殻
      海の響(ひびき)を なつかしむ 」

    (ジヤン・コクト-:「耳」より 堀口大学訳)

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by uqrx74fd | 2009-03-08 11:40 | 自然

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