万葉集その百二十(つきくさ)

「ツキクサ」とは露草のことで万葉集では「月草」「鴨頭草」の字があてられています。

その名の由来は花の汁を染料に用いて摺染めにするとよく着色したので「着きくさ」
あるいは臼で搗(つ)いてその汁を用いるので「搗き草」とよんだようです。

「 月草に 衣ぞ染むる 君がため 
        まだらの衣を 摺らむと思ひて 」 
           巻7-1255 作者未詳


( 露草であなたの着物を染めましょう。色模様の美しい着物を )

好きな男の為に着物を染めるのが嬉しく嬉しくてたまらない乙女心です。

 「 朝(あした)咲き 夕べは消(け)ぬる 月草の
      消ぬべき恋も 我(あ)れはするかも 」 
                巻10-2291 作者未詳


( 朝に咲いては夕方に萎んでしまう露草。
  私の恋も切なくて、切なくて
  今にも身も消え果ててしまいそうな気持ちです)

露草は夏から秋にかけて蛤形の青い鮮明な花を開き、
「青花」「帽子草」ともいわれます。
早朝、朝露にぬれて楚々と咲きますが、午後には萎むはかない命です。


「 月草に 衣は摺るらむ 朝露に
     濡れての後は うつろひぬとも 」 
           7-1351 作者未詳


( 露草でこの衣を摺り染めにしょう。朝露に濡れたあと 
 たとえ色が褪せてしまうことがあっても )

「将来に不安を感じながらも結婚に踏み切ろうとする女の心を述べている。
 男というものはだいたい気の変わる存在だというのは当時も女たちの間で
 定着していた」(伊藤博) そうであります。

露草の染料は褪せやすく、逆にその性質を利用して京都や金沢の
友禅をはじめとする高級染物の下絵描きに花の大きな「オウボウシバナ」が
用いられています。

滋賀県草津市周辺で僅かに栽培されている花ですが、
夏の土用のころに花を集めて手で絞って濃い藍色の汁を採り、
和紙にしみこませた藍紙をつくります。

染色の図柄の下絵を描くときにそれを水溶きして使用しますが、その色素は
染め付けたあと水洗いすると完全に消え、今日なおこれに代わる染料はない
といわれる貴重な花です。

「 露草の 藍にひしめく 露の玉 」   河野静雲
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by uqrx74fd | 2009-03-08 11:39 | 植物

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