万葉集その百十八(蓮)

蓮はインド原産のものですが、日本でも2万年前の化石が出ており太古からの植物です。

昭和26年千葉市検見川の泥炭層から2千年前の蓮の実が3個発見されました。
大変な苦労の末、一つの実を発芽させ生育することに成功し、美しい紅色大輪の花を
咲かせました。まさに奇跡的としか言いようがありません。

発掘を主導した大賀一郎博士にちなみ「大賀ハス」と命名されましたが、その後も
株分けをして各地で繁殖を続けており、その長寿と驚異的な生命力には驚かされます。

その昔、天武天皇の第七皇子新田部親王(にたべみこ)が都の近くの勝間田池に出かけて
美しい蓮の花を見て感激します。

帰宅して早速日頃から憎からず思っている側近の美しい女人に
「 今日、勝間田の池を見たのだが蓮が今を盛りに咲いていてね。
  いやぁ見事だったよ。とても言葉で言い尽くせないほどだった」

 と話しかけます。 そこで女人は即座に詠いました。

「 勝間田の 池は我れ知る 蓮(はちす)なし
        しか言ふ君が 髭なきごとし 」 
               巻16-3835  親王の側女


(勝間田の池のことは私が良く存じています。蓮などございません。
これはこのようにおっしゃるあなた様の髭がないのと同じで、
間違いないことでございます )

これは高度な言葉遊びで「蓮」は同音の「レン」すなわち「恋」「伶」に通じ、
親王が蓮に事寄せて「お前はなんと素晴らしい女なのだ」といったのに対して
彼女が「そんな口先の事を仰せになっても駄目ですよ。
私は知っているのですから」とすねてみせたのです。

あるいは、勝間田池の近辺に別の麗人が居たのかもしれません。

「 ひさかたの雨も降らぬか 蓮葉(はちすば)に
        溜まれる水の 玉に似たる見む 」 
     巻16-3837 右兵衛府の官人(禁中の警備や行事を司る役人)


(空から雨でも降ってこないものかなぁ。蓮の葉に溜まった水が玉のように光るのが
見たいものです。) 

この歌は宴席で蓮の葉を詠み込んだ歌を作れといわれて詠んだもので、「溜まれる水」は
美女の真珠のような涙を暗示しています。「男ゆえに泣く女が見たいなぁ」というわけです。

蓮は開花するときに「ポン」と音がすると言われていますが、色々な実験の結果それは
ないようです。朝の4時頃から咲き始め午後には花を閉じ開花後4日目には散り落ちます。
花が一番美しく、香りがよいのは開花2日目の朝7時~9時頃までと言われています。

蓮はインドで古今を通じ最も清らかで美しく豊かな神聖な植物として尊ばれてきました。
釈迦が妙法蓮華経を説き始め、衆生救済の妙法を蓮華に例えられると人々は蓮の花を
仏前に供え、その実を数珠にしてひたすら念じるようになります。

わが国でも万葉時代に恋の歌の仲立ちをつとめた蓮は平安時代から次第に仏教色が
強くなっていきました。

 「 大紅蓮 大白蓮の 夜明けかな」   高濱虚子
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by uqrx74fd | 2009-03-08 11:37 | 植物

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