万葉集その百十三(朴の木:ホオノキ)

 「 空に香が 溶けつ離れつ 朴の花 」 飯田龍太

朴は古代「ほほがしわ」と呼ばれ、初夏に白色の香しい大輪の花を咲かせます。
葉も大きく、昔は儀式や写経に使われ、また食べ物を包んだり、酒を飲む盃の
代わりにも用いられました。

「 わが背子(せこ)が 捧げて持てる ほほがしわ
   あたかも似るか 青き蓋(きぬがさ) 」 
            巻19-4204 僧 恵行


( あなた様が日覆いにと持っていて下さるホホガシワの葉は
  まるで高貴な方の青い蓋みたいですね )

この歌は750年越中の国守であった大伴家持の邸宅で催された宴の時のものです。

「青き蓋」とは貴人の後ろからさしかける絹などを張った大型の傘で、その使用は
高位高官の人に限られ、傘の色も階級によって細かく区分されていました。

青(深緑)は最高位である一位のもので、当時の家持はまだ従五位上、
傘の使用さえ許されていない身分です。
客として招かれた高僧恵行は宴の主人である家持を一位の身分に見立てて
大いに持ち上げたのです。 
これに対して家持は次のような歌を返します。

「 すめろきの 遠御代(とほみよ) 御代は い重(し)き折り
     酒(き)飲みき といふぞ このほほがしは 」 
                巻19-4205 大伴家持


(古の天皇(すめらみこと)の御代(みよ)御代では 
 この「ほほかしは」を重ね折って酒を召し上がったいうことですよ )

さすがの家持もここまで持ち上げられたのでは気恥ずかしかったのでしょう。

「いやいやこの“ほほかしは”は遠く古い時代から天皇が御酒(おみき)の
 具とされたもので、そんなに貴く聖なるものに例えられては誠に恐れ多いことです」
 と謙遜して謝辞を述べたものですが、決して悪い気はしなかったことでしょう。

飛騨高山といえば朴葉味噌が良く知られていますが、有道杓子(うとうしゃくし)という
名品もあります。
汁やお粥などをすくい取る具で、1800年中頃から朴の材を利用して作られており、
白州正子さんはその著書「木」で「杓子の王者」と絶賛されている逸品です。

「 ほう ほう と   朴の花咲く
     み仏は 今もいますと  告げるかのように
     天へ向かって 朴の花咲く 」    
          坂村真民(わが生のよりどころ より)

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by uqrx74fd | 2009-03-08 11:32 | 植物

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