万葉集その百十(かきつばた)

「かきつばた」の語源は「掻きつけ花」が転訛したものといわれています。

「掻きつける」とは「摺りつける」という意味で、花汁を布にこすり付けて色を移し、
「摺り染め」にすることをいいます。

「カキツケハナ」→「カキツハナ」→「カキツハタ」と変わり、現在の「カキツバタ」と
なったわけです。語尾の「ハタ」は「ハナ」の変異形です。

「 住吉(すみのえ)の 浅沢小野の かきつはた
    衣に摺り付け 着む日 知らずも 」 巻7-1361 作者未詳


( 住吉の浅沢小野に咲くカキツバタ。
  あのカキツバタの花を私の衣に摺り染めにして着る日は
  何時のことなのだろうか ) 

   「住吉の浅沢小野」:現在の大阪市住吉区

この歌の「かきつはた 衣に摺りつけ」は、ある女性を妻として迎えることの
意を含んでいます。
「結婚の約束をしているのだが何らかの事情があり進展しない。
一体何時になったら正式に妻として迎えることが出来るのだろうか? 
不安で仕方がない 」  という気持ちを込めたものです。

「かきつはた」といえば伊勢物語

三河の国の八橋(やつはし)というところで美しいカキツバタが咲いています。
それを見た一人が在原業平に「かきつはた」という五文字を
五七五七七の歌の頭に折り込んで「旅の心」を詠めと迫ります。
そこで即座に詠んだ歌

「 からごろも  きつつなれにし つましあれば 
    はるばるきぬる たびをしぞおもふ 」


( 遥々と旅に出てきたが、都には長年連れ添った最愛の妻を
  残してきているのだよ。
  咲き競っているカキツハタを見るにつけても今更のように
  妻が恋しく思われることだ)

見事に五文字を折り込み、さらに「唐衣、着る、(着)馴れる、褄、」と着物の縁語を
並べた上、「なれ」は「着馴れる」「妻になれ親しむ」
「つま」は「妻と褄(着物の襟先から下のふち)」 「はるばる」は「遥々と(着物を)張る」に
掛けるという技巧の限りを尽くした歌です。

「かきつばた」は漢字で「杜若」「燕子花」と書かれます。

然しながら「杜若」はショウガ科、「燕子花」はキンポウゲ科の中国原産の植物で
「かきつばた」とは全く無縁の別種の植物です。

従ってこれらの漢字を当てることは間違いであると学者間では通説となっていますが
今や広辞苑にも「杜若」が掲載されており、改めることは難しいようです。

なお、「かきつばた」の学名はイリス・レ-ヴィガ-タでイリスは「虹」を意味します。
                       
「 杜若 絵巻の如く 咲き揃ひ 」 京極 昭子 
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by uqrx74fd | 2009-03-08 11:29 | 植物

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