万葉集その九十四(蔓菁:あをな)

 蔓菁(青菜)とは「スズナ」と同じく「カブラ」の古名で古事記に
その栽培の記録が見られるほど古くから大切な野菜とされてきました。

「 食薦(すごも)敷き 青菜煮て来(こ)む 梁(うつはり)に
       行縢(むかばき)懸けて 休めこの君 」 

巻16-3825 長忌寸意思吉麻呂(ながの いみき おきまろ)


まずは難しい語句の意味から
食薦(すごも):食卓に敷く薦(こも)で作ったテーブルクロスのようなもの 
梁(うつはり): 家の棟を受ける梁
行縢(むかばき): 狩、乗馬の時に用いる袴の前を覆うもの

「頼もう-」、「いらっしゃいませ!」、「食事をしたいのだが-」「かしこまりました」

(只今食卓に敷物を敷き、すぐ青菜を煮て持って参りましょう。
 行縢(むかばき)を解いてそこの梁に引っ掛けて休んでいてくださいな
 お越しの公達さま!)

ある時、大勢が集まって酒盛りをしました。皆が作者をけしかけて 
食薦、青菜、梁、行縢という言葉を詠み込んだ歌を作れと囃し立てます。
そこで作者はあっという間にこの歌を詠み、やんやの喝采というわけです。

「狩の途中でふと立ち寄った何かいわくありそうな野中の家。
都風(みやこぶり)の貴公子と山中には珍しい美しい女性。
伊勢物語に似る一つの舞台性を感じさせる」 (伊藤 博) 

このような場面を与えられた言葉をすべて読み込んで
即座に現出させた作者の手腕は大したものです。

万葉集巻十六にはこのような面白歌が多く集められており、
東歌、防人歌と共に人々の暮らしぶりを生き生きと伝えてくれています。
 
カブは形も色も様々で現在80種類以上もあるそうです。
煮ても、蒸しても、漬物にしても美味しく、中でも飛騨高山の赤蕪漬、
京都の千枚漬、酸茎、北陸の鰤ズシ(カブを輪切りにして寒ブリの薄切りを
はさんだもの) などが良く知られております。

「 蕪肥えたり 蕪村生まれし村の土 」 正岡子規
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by uqrx74fd | 2009-03-08 11:13 | 植物

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