万葉集その八十五(時雨)

「 こがらしの 地にも落とさぬ しぐれかな 」 去来

晩秋から初冬にかけて急にぱらぱらと降ってはまた止む小雨を
時雨といいます。
去来は木枯らしに吹き散らされて地面にまで落ちてこない
霧のような雨と詠みました。

万葉人にとって初秋の時雨は「木の葉を美しく色づかせる雨」、
晩秋の時雨は「折角の紅葉を散らしてしまう雨」でした。

「 時 待(ま)ちて 降りし時雨の 雨止みぬ
    明けむ朝(あした)か 山のもみたむ 」 
             巻8-1551 市原 王


( 出番は今か今かと待ち受けて降った時雨が止んだなぁ。
 明日の朝は、さぞ山が見事に紅葉することだろうね。 
 楽しみだなぁ )

「 時雨の雨 間(ま)なくな降りそ 紅(くれなゐ)に
    にほへる山の 散らまく惜しも 」 
             巻8-1594 作者未詳


( 時雨の雨よ そんなに絶え間なく降らないでおくれ。
  こんなに降ると美しく紅色に照り映えている
 山の紅葉が散ってしまうよ。
 まだまだ散らすのには惜しいものなぁ )

 「 神無月(かんなずき) 降りみ降らずみ定めなき
     時雨ぞ冬の はじめなりけり 」 
               読み人知らず 後撰集


この歌は平安時代に「時雨の本意をよく詠みとった名歌」と
喧伝され、(山本健吉)のちの歌に多大な影響を与えました。

以来、「時雨」は冬の季語に変わってゆきます。

東北地方の民謡に「さんさ時雨」という祝儀歌があります。
「さんさ」は」「さっさ」と同じく時雨の降る音からきた言葉では
ないかと云われています。

   「 さんさ時雨か 萱野(かやの)の雨か
        音もせできて 濡れかかる  」


 ここでの時雨 萱野の雨は男を意味し「音もせで」一気に男が
 しかける色事を表わします。
 粋な歌ですねぇ。
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by uqrx74fd | 2009-03-08 11:04 | 自然

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