万葉集その七十三(潮騒)

「 彼の聞く潮騒は 海の巨(おお)きな潮(うしお)の流れが 
  彼の体内の若々しい血潮の流れと調べを合わせているように
  思われた 」 
                  (三島由紀夫:潮騒)


潮が満ちてくる時に波が騒ぎ立てる音を「潮騒」といい
「波の鼓」ともよばれます。

三島由紀夫が小説の題名に使ったこの美しい言葉は、
遥か1300年も前に柿本人麻呂をはじめとする万葉人が造ったものです。

「 潮騒(しほさい)に 伊良虞(いらご)の 島辺(しまへ)漕ぐ舟に
        妹乗るらむか 荒き島廻(しまみ)を 」 
             巻1の42 柿本人麻呂


( さわさわと波が騒いでいる中 あの娘は今頃伊良虞の島あたりを
  廻っている舟に乗っているころだろうか。 
  あのあたりは風波の荒れるところだが )

 伊良虞: 渥美半島先端の伊良湖岬(愛知県)と
        神島(鳥羽市)の二説あり。
        三島由紀夫の小説の舞台は神島

691年持統天皇伊勢行幸の折、都に留まっていた人麻呂は
かって訪れた志摩の海と潮の音を思い描きながら愛しい人への
慕情に思いを募らせています。
その愛しい人とは天皇に従った宮廷の女性だったようです。

「 潮干(ひ)なば またも我(わ)れ 来(こ)む いざ行(ゆ)かむ
      沖つ潮騒  高く立ち来(き)ぬ 」 
                     巻15の3710 作者未詳


( 潮が引いたらまた遊びにやってこよう。 さぁ 新羅を目指して出発だ。
 沖の潮騒が高くなってきたよ )

736年遣新羅使が国内最後の寄港地、対馬に船泊したときの歌です。
使節一行の苦難の旅がここから始まります。

黄昏時に海が紅に染まるころ、さわさわと騒ぐ波音を「夕潮騒」といいます。
寄せる波の音は強く、かえる波の音はひそやかです。

  「 引く浪の 音はかへらず 秋の暮 」  
 
                    渡辺水巴(すいは) 

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by uqrx74fd | 2009-03-08 10:52 | 自然

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