2009年 03月 08日
万葉集その七十三(潮騒)
彼の体内の若々しい血潮の流れと調べを合わせているように
思われた 」
(三島由紀夫:潮騒)
潮が満ちてくる時に波が騒ぎ立てる音を「潮騒」といい
「波の鼓」ともよばれます。
三島由紀夫が小説の題名に使ったこの美しい言葉は、
遥か1300年も前に柿本人麻呂をはじめとする万葉人が造ったものです。
「 潮騒(しほさい)に 伊良虞(いらご)の 島辺(しまへ)漕ぐ舟に
妹乗るらむか 荒き島廻(しまみ)を 」
巻1の42 柿本人麻呂
( さわさわと波が騒いでいる中 あの娘は今頃伊良虞の島あたりを
廻っている舟に乗っているころだろうか。
あのあたりは風波の荒れるところだが )
伊良虞: 渥美半島先端の伊良湖岬(愛知県)と
神島(鳥羽市)の二説あり。
三島由紀夫の小説の舞台は神島
691年持統天皇伊勢行幸の折、都に留まっていた人麻呂は
かって訪れた志摩の海と潮の音を思い描きながら愛しい人への
慕情に思いを募らせています。
その愛しい人とは天皇に従った宮廷の女性だったようです。
「 潮干(ひ)なば またも我(わ)れ 来(こ)む いざ行(ゆ)かむ
沖つ潮騒 高く立ち来(き)ぬ 」
巻15の3710 作者未詳
( 潮が引いたらまた遊びにやってこよう。 さぁ 新羅を目指して出発だ。
沖の潮騒が高くなってきたよ )
736年遣新羅使が国内最後の寄港地、対馬に船泊したときの歌です。
使節一行の苦難の旅がここから始まります。
黄昏時に海が紅に染まるころ、さわさわと騒ぐ波音を「夕潮騒」といいます。
寄せる波の音は強く、かえる波の音はひそやかです。
「 引く浪の 音はかへらず 秋の暮 」
渡辺水巴(すいは)
by uqrx74fd | 2009-03-08 10:52 | 自然