万葉集その六十八(紅:くれない)

紅花の原産地はエジプト周辺の中近東で、紀元1世紀前後に
シルクロードを経て中国に伝わり、わが国へは5世紀頃に渡来しました。

その名の「紅(くれない)」は「呉(くれ)の藍(あい:古くは染料の総称)」の
略といわれ「古代中国、呉(ご)の国から伝来した藍」というわけです。

染料、薬用、口紅さらに種子から紅花油が採られ今日なお有用の植物です。

万葉時代の王朝人にとっても紅染めは紫と共に憧れの色彩で
最高の色としてもてはやされていました。

 「 紅の 深染(こそめ)の衣(きぬ)を 下に着ば
    人の見らくに にほひ出(い)でむかも 」 
              巻11の2828 作者未詳


( 紅の花で濃く染め上げた衣、なんと見事な色だろう。 
 そんな派手な着物を内側に重ね着したら、人が見たときに
 中から透けて見えるだろうなぁ)

「 紅の深染の衣 」とは「馴染を重ねた美しい女」
「下に着る」は「その女と人目を忍んで契りを結ぶ」ことの比喩で
 忍ぶ仲が露見することを恐れる気持ちを詠ったものです。

それに対して相手の女性は

「 衣(ころも)しは さはに あらなむ 取り替えて
   着ればや 君が面忘れてある 」 
            巻11の2829 作者未詳
 

 ( よくも白々しくおっしゃること。
  着物ならいくらでもたくさん持ちたいものですが
  新しい衣を取っ替え、引っ替えするように次から次へと女を乗り換えて
  私の顔をすっかりお忘れでは‐‐) と大いに皮肉った歌を返します。

「 外(よそ)のみに 見つつ恋ひなむ 紅の
   末摘花(すえつむはな)の 色に出でずとも 」 
                巻10の1993 作者未詳


( たとえあの方が 色鮮やかな末摘花のようにはっきりと
  私のことを好きだと素振りに見せて下さらなくともいいのです。
  私は遠くからそっとお慕いしているだけで )

紅花は茎の先端に咲く花を摘み取ることから「末摘花」ともよばれます。

摘み取った花は大変な手間ひまをかけて染料や口紅の原料となる
「紅花餅」に加工されます。
当時、同量の米の十倍もしたといわれる超高級品でした。

古くから山形県東部地方が一大産地として知られ「最上紅花」の名で
京都へ送られて上流階級の人々の生活を彩ったのです。

「 行くすえは 誰(た)が肌ふれむ 紅の花 」 芭蕉 
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by uqrx74fd | 2009-03-08 10:47 | 植物

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