万葉集その六十五「合歓(ねむ)の花」

「ねむ」(ねぶ)は夕方にその葉と葉が合掌して眠るように
閉じるのでこの名があります。

細い絹糸を集めたような淡紅色の雄しべの花がつき、
日没に葉が閉じると入れ替わるように開花します。

紅をぼかしたようなその姿は清楚というよりも妖艶な女性を
思わせるようです。

中国では「ねむの木」を「合歓の木」と書き
「男女が共寝して相歓び合う」という意味を付しました。

「 昼は咲き 夜は恋ひ寝(ぬ)る 合歓(ねぶ)の花
       君のみ見めや 戯奴(わけ)さへに見よ 」 
                巻8の1461 紀 郎女


( 昼間は綺麗な花を咲かせて、夜になればぴったりと葉を合わせ、
 好きな人に抱かれるように眠る合歓の木ですよ。羨ましいなぁ。
 そんな花を主人の私だけが見てもよいものでしょうか。
 お前さんも御覧なさいな。あなたと一緒に見たいのよ。)

 君のみ見めや: 君はここでは主人の意で作者自身をさす
 戯奴: 年少の召使などを呼ぶ言葉 ここでは大伴家持をさす

この歌は紀郎女が大伴家持に合歓の木を切り添えて贈ったものです。

年上で人妻(天智天皇の曾孫安貴王の妻)でもある作者は戯れながら
花によせて共寝を誘っています。

若き日の家持はどぎまぎしながらも歌を返します。


「 我妹子(わぎもこ)が 形見の合歓は花のみに
      咲きて けだしく実にならじかも 」 
               巻8の1463 大伴家持


( あなたが下さった合歓は花だけ咲いて多分
  実を結ばないのではありますまいか。
 あなたのお気持ちは口先だけで本気ではないのでしょう )

家持の歌に反し合歓は秋にエンドウ豆風の果実を房状につけます。
このことを知っていたならば家持もまた違った歌を返していた事でしょう。

江戸時代、芭蕉は「奥の細道」の旅で象潟に立ち寄ります。

「入江の広さは縦横一里(4km)ばかり。
 景観は松島に似ているようでまた違っている。
 松島は美人の笑顔のような華やかさだが
 象潟は美人が物思いに耽っているようだ。
 寂しさと悲しさを重ね合わせた感じで
 男をふるえさせる女性に似ている」
           ( 佐々木幸綱 芭蕉の言葉より)

芭蕉は合歓の花に中国周時代の傾城の美女西施への
想いを重ねました。

 「 象潟や 雨に西施が ねぶの花 」 芭蕉 
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by uqrx74fd | 2009-03-08 10:44 | 植物

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