万葉集その六十「空木(ウツギ):卯の花」

「卯の花の匂う垣根に   
   ほととぎす 早も来鳴きて
   忍音もらす  夏は来ぬ」      
     (夏は来ぬ 一番より) 佐々木信綱作詞


この懐かしい歌は、江戸時代の歌人、加納諸平(かのう もろひら)の
「 山里は 卯の花垣のひまをあらみ 忍び音洩らす ほととぎすかな 」の歌を
下敷きとして作られたといわれています。

ウツギは木の幹が中空であることからその名があり「ウツギノハナ」の
「ツギ」が略されて「ウノハナ」になりました。

青葉が目に沁みる頃、山野のあちらこちらで白い花が咲き、
夏の先駆けとして季節の到来を告げてくれます。

「 五月山(さつきやま) 卯の花月夜 ほととぎす
   聞けども飽かず また鳴かぬかも 」  
            作者未詳 巻10の1953  


(五月の山を月が皓々と照らしています。
月光が卯の花をぼうっと白く浮き立たせて実に美しい。
このような素晴らしい夜に何とまぁ、ホトトギスの声が聞こえてきましたよ。
この澄み切った声はいくら聞いても飽きませんねぇ。
もう一度鳴いてくれないかなぁ。)

五月の青葉の山を「五月山」、「月夜の卯の花」を「卯の花月夜(うのはなづくよ)」
なんと美しい万葉人の詩的造語。

「 佐伯山 卯の花持ちし 愛(かな)しきが
    手をし取りてば 花は散るとも 」 作者未詳 巻7の1259


( 佐伯の山で卯の花を持っていた可愛い子、
 あの子の手を握る事ができたらなぁ。
  美しい花は散るかもしれないけど それでも本望だよ )

佐伯山:広島県佐伯郡の山といわれるが所在不明

折口信夫氏によると卯の花はその年の豊凶を占う花で
山野に長く咲く時は豊作、
長雨続きで花が少ない時は凶作と信じられていたそうです。

卯の花の白い蕾が米粒を連想させたのでしょう。
このような事から人々はこの時期の長雨を「卯の花腐(くた)し」
と呼んでいました。
大切な卯の花を長雨が腐らせてしまうという意味です。

「 卯の花を腐す長雨(ながめ)の 水始(みずはな)に
    寄る木屑(こつみ)なす 寄らむ子もがも」 
          19の4217 大伴家持


( 卯の花を痛める長雨で水かさが多くなった川、
  その流れの先に木の屑がいっぱい集まっていますよ。
  このような木屑のように私のところに美しい女性が
  集まってくれたらいいのになぁ)

水始(みずはな):「はなみず」とも読み水量の増した流れの先端のこと

「卯の花腐し」は後に「五月雨(さみだれ)」の異名となります。

 「 谷川に 卯の花腐し ほとばしる 」 高濱虚子
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by uqrx74fd | 2009-03-08 10:39 | 植物

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