万葉集その五十六(馬酔木:あせび、あしび)

「 まぁ これがあなたの大好きな馬酔木(あせび)の花 - -
どこか犯しがたい気品がある。それでいて、どうにでもして手折ってちよっと
人に見せたいような、いじらしい風情の花だ。 

云わば この花のそんなところが 花というものが今よりずっと意味ぶかかった
万葉人たちに、ただ綺麗なだけならもっと他にもあるのに、
それらのどの花にも増して いたく愛せられていたのだ 」

               堀 辰雄 大和路 (浄瑠璃寺の春) より

馬酔木はツツジ科の常緑低木で鈴蘭に似た白い壷形の花を鈴なりに咲かせます。
その可憐な姿に惹かれて馬がその葉を食べると酔うことからその名前が付きました。
「あしび」とは「足の痺れ」が縮まったとも言われています。

また古代の人達はその有毒性を活用して煎汁を菜類の害虫駆除等に利用したので
ハモリ(葉守り)とも呼ばれました。

 「我(わ)が背子に 我(あ)が恋ふらくは 奥山の
  馬酔木(あしび)の花の 今盛りなり 」 
             巻10の1903 作者未詳


( 馬酔木の花が今真っ盛りです。いとしいあの人に思い焦がれている私、
  花ガ美しく咲き栄えているように私のあなたに対する想いは
  溢れるばかりでどうしようもありません。
  あぁ人知れず思い悩んでいる私--)

馬酔木はその房々とした花が稲の穂に似ているところから豊穣、繁栄の印とも
され祝歌としても詠われます。

「 鴛鴦(おし)の棲む 君がこの山斎(しま) 今日見れば
    馬酔木の花も 咲きにけるかも 」
       
    巻20の4511 三形王(みかたのおう;役所の長官)


この歌は式部大輔清麻呂という人の誕生日の宴席で三形王が詠ったもので
山斎とは清麻呂邸の庭園とその屋敷をいいます。

( おしどりが仲良く棲む貴方様の素晴らしいお庭。
 今日このお目出度い日にそのお庭を眺めていますと
 何とまぁ馬酔木の花も今を盛りと咲き誇って
 あなた様のご繁栄を共にお祝いしていることです)

この繁栄の象徴である「馬酔木」は日本各地で面白い風習を生み出しました。
以下は 元京都府立植物園館長 麓 次郎氏のお話です。
 
「 鳥取県米子市あたりでは「アセビ」を「ゼニカネシバ(銭金柴)」と言う。
  正月事始に自在鉤の煤をアセビの枝葉で払い、
  これを燃やして団子を煮る。
  「アセビ」の燃える「バリバリ」という音が「ゼニカネ、ゼニカネ」と
  聞こえるとしてその名を付けられ、この音に調和して「
  ゼニカネ ゼニカネ」と叫べば決して貧乏はしないという習俗が
  あったといわれる 」   
                    (四季の花事典より一部抜粋)
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by uqrx74fd | 2009-03-08 10:35 | 植物

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