万葉集その四十八(柳は緑)

「柳は緑 花は紅」 この言葉は13世紀南宋の
道川(どうせん)という禅僧が
「目前ニ法無シ サモアラバアレ 柳ハ緑 華ハ紅」
と説いたことに由来します。

「すべて あるがまま 自然のままに受け入れる心にこそ
悟りの境地がある」と言う意味です。

その言葉が転じて「春の眺めの美しさ」の例えとして用いられ、
さらに花と柳をあわせて遊里、遊女をさす「花柳」という言葉も生まれました。

柳は生命力が強く、春一番に芽を吹くことから我が国では古くから
長寿や繁栄の象徴とされ、さらにその頼もしい生命力に頼り、
悪い妖気を払う守護神として屋敷の周辺や水辺を取り巻くように植えられました。

 古来「柳」という字は葉が細かくて枝か柔らかく垂れる「シダレヤナギ」に用い
「楊」のほうは葉に丸みがあり枝が堅く上向くヤナギ つまり「ネコヤナギ」や
「ヤマネコヤナギ」に用います。

ネコヤナギは芽が銀色に光り柔らかく猫の毛に見えるのでその名があり
二~三月頃に芽吹き、二ヶ月くらい後にシダレヤナギの花が咲きます。

「うちのぼる 佐保の川原の 青柳は 
       今は春へと なりにけるかも」 
               巻8の1433 大伴坂上郎女


( 春ですねぇ 佐保川の流れに沿ってのぼっていくと柳も
  すっかり芽吹きそよ風に揺れてなんと気持ちの良いこと )

 作家 栗田勇さんは次のような名解説をされています。

「いかにも春が柳の緑となって押し寄せてきているという迫力を感じます。
何故か一本ではなく河岸沿いに新芽がうねっているようです。

本当に躍動するエネルギーのうねりが目に見える歌といえるでしょう。
柳の持っている生命力、芽を吹く不思議な力がせせらぐ流水と一つになって
実感されます」
           「花のある暮らし 岩波新書」より

万葉人は柳の若葉から女性の眉を連想し「柳眉(りゅうび)」という言葉は
美人の代名詞となります。
また女性の美しく細くしなやかな腰を「柳腰」ともいいます。


「梅の花 取り持ちみれば わが屋前(やど)の 
       柳の眉し 思ほゆるかも」      
              巻10の1853 作者未詳


( 梅の花を手折ってじっと見つめていると あの柳の若葉のような
  美しい眉をした新妻が思われてならないよ )

私たちは柳の木をその神秘な生命力にあやかり現在でもなお
「柳の祝い箸」「爪楊枝」
「餅花飾り(米の粉を丸めて作る団子や繭形の餅を柳の木に飾る)」
「結び柳(生け花で柳を輪にして新春に飾る)」など様々な用途に用いています。

余談ではありますが「青柳」という貝があり料理や寿司のネタに使われます。

バカガイの剥き身をいい、足の形が柳の葉に似ており、また千葉県の
青柳で昔たくさん採れたところからその名があるそうです。

また「柳川」という「どじょう鍋」料理がありますが、これは天保時代に江戸の
「柳川」という店で始め、大いに流行ったところからその名が付きました。

従って福岡県の「柳川市」も「柳の下の泥鰌」という諺も
「柳川」という料理名の由来とは無関係のようです。

因みに柳川市の名物料理は「鰻のせいろ蒸し」でこれは
絶品であります。
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by uqrx74fd | 2009-03-08 10:27 | 植物

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