万葉集その九(ぼやきの一つも言いたくなるさ)

万葉集は1300年前の歌と共に当時のさまざまな生活を私達に
活き活きと伝えてくれています。
今回は万葉人の「ぼやき」です。
さあ、耳を澄ませて聴いてみましょう。

 「 西の市に ただ一人出(い)でて 目並べず 

    買ひてし絹の 商(あき)じこりかも 」 

                      巻7ー1264 作者未詳


 (目並べず) 自分だけの判断で 
 (商じこり) 商いの仕損じ

 奈良の都では人々が各地から集まって交易する東西の市がありました。
 この歌は物々交換の市で不良品をつかまされ口惜しがっている時の
 「ぼやき」です。

 (西の市にただ一人出かけ、自分の目だけで判断して買ってきた絹は
 とんでもない品だったよ。あぁ安物買いの銭失いだ。)

 現在でもバーゲンセールで良くあることですね。

 ところで、この歌には裏の意味があるようです。

市と云えば人が行き交う場所。
ここでは男と女が集い、お互いに歌を
掛け合って恋人を見つける「歌垣」が行われていました。
                                                                   このような背景を考えますと
「他人の意見も聞かずに有頂天で我が物にした女がとんだ食わせ物だった」
と嘆いている歌ともとれます。

 注; 古い研究書では「仲人口にだまされて見掛け倒しの配偶者を得たことを
     悔いる気持ちの比喩歌」との解釈もなされています。

 次は、身分の高い家の女を妻にした男が気苦労の多さにぼやいている歌です。

 「 橡(つるはみ)の 衣(きぬ)は人皆(ひとみな) 事なしと

     言ひし時より 着欲しく思ほゆ 」 
                       巻7ー1311 作者未詳


 橡はくぬぎ、 その実どんぐりを煎じた汁に鉄を加え紺黒または黒色に
 染めた着物は身分が低い階級が着るものとされていました。

 「事なし」とは男女間のわずらわしさがないこと 「着欲しく」は女と契ること

 (つるばみで染めた着物は気楽だと世間の人々が口々に言うのを聞いてから
  あぁ、着たいものだと思えてならない)

 つまり身分は低くても、心映えの優しい気楽な女性と結婚すればよかったと
 嘆いている様で、恐らく毎日小うるさく言われ尻に敷かれているものと
 想像されます。

 「いい気な贅沢をいうな」と言われそうな歌ですが今も昔も変わらぬ
 人間の心理には驚かされます。
 
[PR]

by uqrx74fd | 2009-03-08 09:48 | 生活

<< 万葉集その十(すまじきものは宮仕え)    万葉集その八(月の船) >>