万葉集その三(花のメドレー)

春から初夏にかけてのこの頃、自然は昔と変わらぬ花々を咲かせ楽しませてくれます。
万葉人も心を躍らせながら花を愛で、多くの歌を詠い、春を謳歌したことでしょう。
今回は桜、藤、杜若、躑躅のメドレーです。

 「 あをによし 奈良の都は 咲く花の

      にほふが如く 今盛りなり 」     

   巻3-328 小野老(おゆ)


この著名な歌は作者が叙勲のために赴いた奈良から大宰府に帰り、その豪華絢爛たる
都の様子を満開の花々に例えて宴席で詠ったもので、天平文化の最高潮を讃えるに
ふさわしい一首です。

宴席に連なる人たちも都への郷愁がさらに募ったことでしょう。

「あをに」 :青土で顔料、奈良は青土の産地として知られ、奈良の枕詞となる。
「にほふ」: 色が照り映えること、原文が「薫」なので芳香の意も含む。
    
  「 藤波の花は 盛りになりにけり

           奈良の都を 思ほすや君 」  

          巻3-330 大伴四綱
 

 ( 藤の花が真っ盛りですねぇ。あなたさまも藤の花が咲いている奈良の都を
  私同様さぞ懐かしく思っておられることでしょう )
 
 作者が満開の藤を眺めながら大伴旅人(君)に話しかけた歌です。
 紫や白色の花房が連なるさまを波に見立て「藤波」とした万葉人のセンスのよさ。
          
 「 かきつはた 衣(きぬ)に摺(す)り付け ますらをの

     着襲ひ(きそひ) 猟(かり)する 月は来にけり 」 

            巻17-3921 大伴家持


( 今年も杜若の花が咲き始めましたが。相変わらず綺麗な色ですねぇ。
  この花を着物に摺り付けて染め、ますらを達が薬狩りする時がきましたよ。
 それぞれどのような衣装でやってくるのかを待ちどうしいことです )

(かきつはた) =杜若 その花を衣服や紙を染めるのに用いた
(摺りつけ): 花を布に摺り付けて染色したり、カキツバタペインティングをした
(着襲う) :衣服の上に重ねて着る(重ね着) 猟のときの伊達で粋な出で立ち

(猟): 5月5日に薬玉に入れる薬草を取るための薬猟
(薬玉):薬を入れる丸い入れ物

(月) :  お月様の月ではなく今月、来月の月 または時
              
  「 山越えて 遠津(とほつ)の 浜の 岩つつじ

     我が来るまでに 含(ふふ)みてあり待て 」   

            巻7-1188 作者未詳


( 山を越えて遠くまで行くというわけではないが、遠津の浜の岩躑躅よ
  私が帰ってくるまで、蕾のままでずっと 待っていておくれ )

岩躑躅を土地の若い娘と見立て、娘が他人のものにならず初心(うぶ)なままで
嫁がないで待っていて欲しいという男の気持ちを詠んだものです。

(あり待て) : そのまま今の状態で待て
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by uqrx74fd | 2009-03-08 09:42 | 植物

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