万葉集その二百十八(梅の実、梅干)

まもなく梅雨入り、梅の実が熟する季節です。

中国原産である梅は元々「梅酢」を作るために栽培されたといわれています。

梅酢とは梅を塩漬けにして出た汁から得られる調味料で「塩梅」(えんばい)
と呼ばれました。

作り方は簡単なようで難しく塩加減が決め手だそうです。
塩が多いと鹹(から)く、塩が少ないと酸っぱい。

このことから「塩梅」(えんばい)という言葉は
 按配(あんばい:程よく調和している)
さらに転じて「臣下がうまく君主の政治を助ける」(広辞苑) 
という意味にもなりました。

塩梅は肉類などの生食に欠くことが出来ない調味料であると共に、
クエン酸を主成分とするところから器具や人体の消毒、金属の鍍金や
はんだ付け、青銅器、鉄器の酸化皮膜処理、また、化粧や
染色に使う「紅」(べに)の色素の精製、油にまぜて黒の染料にするなど、
近代に至るまで多様な方面に用いられていました。

 「 妹が家に咲きたる花の 梅の花

           実にしなりなば かもかくもせむ 」 

                   巻3-399 藤原八束


( あなた様の家に咲く美しい梅の花。
その梅の花が実になったらその時は私の思い通りにさせて
いただきたいのです)

「かもかくもせむ」:「望み通りにさせていただきたいのですが」

「実にしなりなば」に「梅の実が成熟すること」と「娘の結婚適齢期」とを掛け
娘の母親から縁談を暗に持ちかけられた作者が
「時期がきたらその時に考えましょう」といささか腰が引けた態度で
応じた一首です。

( その経緯については万葉集その204「空騒ぎ」心象編をご参照下さい)


万葉集で梅の歌は120首前後ありますが梅の実を詠ったものは少なく、
それもすべて「実になる=女性の結婚適齢期」という比喩に使われています。

一つ「梅」に関して興味深いことは、その原文表記の多くが「烏梅」となっており
それを「ウメ」と訓ませていることです。


当時、烏梅(うばい)という黒い梅がありました。
半熟の梅を藁の煙で燻(いぶ)して燻製状にした漢方薬のことで、解熱、腹痛に効ありと
され現在でも和歌山県で細々と作られているそうです。

万葉人もその「烏梅」を常用していたのでこのような原文表記になったのでしょう。
それにしても中国渡来とはいえ、「烏(カラス)のような黒い梅」とは面白い表現ですね。



「 拾ひつる うす赤らみし 梅の実に
    木の間ゆきつつ 歯をあてにけり 」 若山牧水



青い梅は酸味が強く生食には適さないものですが作者は
そのまま食べたのでしょうか?

梅干の作り方については6世紀の「斉民要術(せいみんようじつ):中国)に
「青梅を夜の間 塩汁に浸し、昼は天日に曝す。
これを10昼夜続けると白梅が出来る」との記述があり現在の梅干作りと
全く同じ方法だといわれております。

我国でも奈良時代にはその製法が伝えられていたと推定されていますが、
紫蘇の葉を用いて赤い梅を作るようになったのは江戸時代からだそうです。

「 梅漬の紅は日本の色なりし 」     粟津 松彩子
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by uqrx74fd | 2009-06-10 08:28 | 植物

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