万葉集その二百三十三(愛犬)

 「 花吹雪 犬をつないで 外出かな 」   杉田久女

犬はあらゆる動物の中で最も古い家畜の一つとされ、今から2万年も前から先祖である
狼かそれに似た動物を長年にわたって飼い馴らし、交配を重ねて生み出されたものと
考えられています。

我国では縄文時代の遺跡から人間と同じ場所に埋葬された犬の骨が出土しており、
古くから人々の良き伴侶として生活していたようです。

当時、主として飼われたものは
「今日の秋田犬であって、アイヌ犬と同系の北方系統の犬 (東 光治:万葉動物考)」と
推定されており、飼い主に忠実な性質から狩猟、警備、労役、軍用、愛玩用に飼育され、
大和朝廷では「犬養部」という専門の部署まで設けるほどの力の入れようでした。

万葉集では次の旋頭歌(577、577基調歌)のほか長歌二首に詠われています。

「 垣越しに 犬呼び越して 鳥猟(とがり)する君

    青山の 茂き山辺(やまへ)に 馬休め君 」 
                     巻7-1289 柿本人麻呂歌集


ある貴人が山の中で鷹狩をしていた最中のことです。
従っていた犬が突然、鬱蒼とした木々に囲まれた一軒家の垣の中に飛び込みました。
「おーい 、おーい、戻って来い」と慌てて犬を呼び返す男。
その声を聞きつけて、妙齢の美女?が家の中から顔を出し、

「 あら、そこの旦那さん、いらっしゃいませ。
素敵なお休み処があるのに、まだ狩をお続けになるつもりですか。

お馬も疲れた顔をしていますよ。そんなに急がないで少しお休みなさいませ。
折角あなた様の犬がここまで案内してきたのですから。
さぁ、さぁ、よ-く冷えたビールを一杯如何!」 といったところでしょうか。

ユーモラスな民謡風の趣があり、
「 主人の気持を察して入り込んできた犬をことさら呼び返すこともありますまい
という揶揄が一首総体に込められているように思う(伊藤博)」そうで、賢い犬ですねぇ。
「片足あげて 木戸押す犬に 秋の雨」(杉田久女)のような光景も思い浮かぶ一首です。

狼を先祖とする犬は古くから霊的な動物とされ、郷土玩具の犬張子が幼児を守る
魔よけとされたり、犬の出産が軽い事から、犬の絵や字を書いて安産を祈ったりする
習慣は今もなお残り、文芸の世界では江戸時代の曲亭馬琴著「南総里見八犬伝」が
映画や歌舞伎、演劇、テレビドラマ、アニメ、さらにゲームにまで登場しております。

「 石井辺の 秋海棠に犬ころが

         遊べるよしも  画にやかくべき 」  伊藤左千夫


番外編:「愛犬に贈る言葉」

初めての出会いはボクの太鼓腹の上。
昼寝をしている間に、キミはちょこんと座っていました。

ふと目を開けると、そのクリクリとした眼で、不思議そうにボクを見つめていたね。
「よっちゃん」が初めてのボーナスでプレゼントしてくれたのです。

「ベンジャミン」と名付けられたキミは、終生「よっちゃん」を「おとうさん」
「ボク」を「相棒」と思っていたようだなぁ。
「買い主」と「飼い主」の違いがわかっていたのかしらん。

新しい家族を迎えて楽しい生活がはじまりました。

毎日毎日散歩をしたり、庭を自由に駆け回り、
薔薇の棘に耳をひっかけキャンキャン泣いたこともあったっけ。
それに雷や花火を恐がって音が聞こえるといつも机の下に潜り込んでいたなぁ。

お得意は後足で立って歩くことと、ボクの顔をくまなくなめまわし、
最後に耳の穴で仕上げる大サービス。

それに鰹節が大好きなキミは使い残しの硬いやつをよくガリガリ噛んでは
「猫ならぬ犬に鰹節かぁ」とよく冷やかされたよねぇ。

母さんが買い物に行くと庭石の上にじっと座ったまま動かずに
帰りを待ち続けていたキミは、まるで「ハチ公」の銅像。

ところが可愛いお嬢ちゃんに「ベンちゃん」とよばれると弱いんだなぁ。
これはご主人似かぁ。

そうして18年、あっという間に過ぎました。
人間の年でいえば90歳。

いよいよ今の際になって、もう足腰が立たないのに、
息も絶え絶えになりながら2階への階段を必死の思いで登り、
ボクに挨拶をしにきてくれたキミ。
その健気さに思わず涙がでたよ。

そして、お母さんの腕に抱かれて、さようならと言って目をとじました。

ベンちゃん、ありがとう。
素晴らしい生き様だったねぇ。
キミに出会えてボクたち家族はみんな幸せだったよ。
                 ( ベンジャミン:ビーグル犬 雄 2008.2.28没 )
 
「 かろやかに 駆けぬけゆきて ふりかへり

       われに見入れる 犬のひとみよ」   北原白秋

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by uqrx74fd | 2009-09-21 09:49 | 動物

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