万葉集その二百四十三(高いなぁ!税金)

税務署と坂口安吾(作家)の問答

 税務署: 「 税金を払って下さい 」
 坂口:  「 金を全然持っていないのに課税するのは不当だ 」
 税務署: 「 持っている金に税がかかるのではなく 
         あなたが受け取られた金に課税するのです」
 坂口:  「 むちゃ言うな。 取った金など右から左に使ってしまった。
        金がないのに何から払い金をひねりだすのだ 」

                  ( 市川 深 「万葉の心 生きる心より:税務経理協会発行」)

古代、律令制度下では「一家族を戸」とし、その主を「戸主」といいました。
そして「50戸を里」として里長を置き、戸主の監督と税の取立て役を兼務させます。

各戸主に負担を義務付けられていたのは 租、調、庸、の税金と役民、兵役でした。

与えられた田畑にかかる人頭税の「租」、各地の特産物を納める「調」だけでも
大きな負担であった上、働き手の男子は役民や兵役で徴収され、庶民の生活は
言語に絶するほど過酷なものであったようです。

                          ( 末尾の「古代の税」をご参照下さい)

「 風交じり雨降る夜(よ)の 雨交じり雪降る夜は すべもなく寒しくあれば
    堅塩(かたしほ)を とりつづしろひ 糟湯酒(かすゆざけ)うちすすろひて- -

  - かまどには火気(ほけ)吹き立てず  甑(こしき)には蜘蛛の巣かきて
  飯炊く(いひかしく) ことも忘れて - 

  - - しもと取る 里長(さとをさ)の声は
     寝屋処(ねやど)まで 来立ち呼ばいぬ
     かくばかり すべなきものか 世の中の道」 巻5-892 山上憶良


 ( 風に交じって雨の降る夜、その雨にまじって雪の降る夜は 寒くて仕方がないので
  保存用の固い塩をかじったり酒粕の汁を熱くしてすすったりして -

  - かまどには火の気を吹きたてることも出来ず、米を蒸す甑(こしき:土器)には
  蜘蛛が巣をかけて、飯を炊く事などとっくに忘れてしまい -

 笞(むち:しもと)をかざす里長の声は、寝屋までやってきてわめきたてている。
  こんなにも辛く処置のないものか、世の中を生きてゆく道は )

教科書にも引用される有名な「貧窮問答歌」の一部です。

働いても働いても追いかけてくるものは貧窮でしかない一般農民のあえぎ。
窮乏を極限にまでせり上げていくすさまじい描写(伊藤博)は当時の庶民の生活を
赤裸々に伝えてくれています。

「法師らが 髭の剃り杭(くひ) 馬つなぎ
    いたくな引きそ 法師は泣かむ 」 巻16-3846 作者未詳


「 檀越(だにをち)や しかもな言ひそ 里長(さとをさ)が
     課役(えだち)徴(はた)らば 汝(いまし)も泣かむ 」 巻16-3847  法師


 檀越(だにをち): 仏に供物を布施する檀家の人々

檀家の一人が、坊さんの顔に剃り残した髭を見てからかいました。

「 その剃り損ないのひげに馬なんかを繋いで手荒に引張るなよ。
坊さんが泣きべそかくのに決まっているからな 」と

小さな髭と大きな馬とを取り合わせた取り留めのない冷やかしの戯れ歌ですが、
「馬を持ち出したのは檀家衆が馬で運ぶ布施物を、嬉々として取り込む僧侶の姿を
揶揄(伊藤博)」したり、やっかむ気持もあったのでしょう。

ところが法師の反撃が凄まじい。

「 檀家衆や、そんなひどいことを言いなさんな。
里長が課役に駆り立ててきたら、泣きべそをかくのはお前さんたちだろうからな。」

僧侶の収入は非課税の上、課役も免除されていました。
当時、課役の辛さに耐えかねて逃亡者が続出し、浮浪者が巷に満ち溢れていた世の中です。
庶民の一番の泣き所である課(みつぎ)と役(えだち)をすかさず持ち出して、しっぺ返しを
した法師。当時の世情の一端を物語ってくれている一首です。

 法律というものは   骨身にしまない連中が
   いつもこしらえて   おしつけるものだ

   税金などはとくにそうだ  ことしは収入が激減したのに
   税金だけは激増し   市民税など一万数千円もふえ
   来年はその倍になるという

   庶民のための政治なんて   あったためしはないが
   いつそんな時代がくるのか   - - 」 

                    坂村真民 税金より一部抜粋


「ご参考:古代律令制下の税制概略」

 ① 「租」: 各戸全員に与えられた田地にかけられるもので、個人全員一律に
        課される人頭税。
        収穫予想量の概ね3%と推定され、軽いようにみえるが、田の良し悪し、
        家からの遠近、気候変動による収穫の有無、働き手の老若男女に
        関係なく、一律に課されるため、極めて不公平なものであった。

        それ以外に義倉という救荒用穀物を強制的に拠出させられる。

② 「調」:  各地の特産物を所有する田畑の割合で付加
        都に運ぶ費用はすべて自弁、この負担が極めて重かった。

③ 「庸」   イ.労役(歳役) : 1年に10日、都で土木工事に従う規定だが調で
           代替出来た。
        ロ.雑徭(ぞうよう) : 国や都の土木工事や雑用に従事する。年間60日

④ 「役民(えきみん)」
       イ.庸役: 国家が必要に応じて半強制的に雇い入れる労働 (食料、労賃支給) 
       ロ.仕丁役:  1里ごとに正丁2名を出す。3年交代で都に出て中央の役所の
                雑役や造営事業に従事。費用は里の各戸で負担

        註:
            正丁: 21~60歳までの健全な男子 
            次丁: 61~65歳と不具者の男子  ( 正丁の50%の労役)
            少丁: 17~20歳男子 (正丁の25%の労役)

⑤ 「兵役」 :   各戸の正丁3人に1人の割合で兵士を徴発 

            イ.衛士(えじ) : 宮城の警護 任期1年
            ロ.防人 :  任期3年
                                        以上です。
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by uqrx74fd | 2009-11-29 08:47 | 生活

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