2010年 12月 18日
万葉集その二百九十八(竹のいろいろ)
(同上)
(万葉の茶花 講談社より 庄司信州作 青竹の器 枝垂れ柳、梅、椿)
『 母方の故郷の丹波には、かぐや姫の生まれてきそうな竹林が随所にある。
朝日が斜めに差し入る竹林には鋭い光が美しいが、中天に太陽がある時の竹林は
青い虫籠の中にいるように閑雅なさびしさに満ちている。
さわさわという風の囁き(ささやき)が高い所にあって、踏む土には
落ちた枯れ葉がしわしわと鳴っていた。
青い竹の天地は、それだけで故郷感が呼びさまされる。』
( 馬場あき子著 花のうた紀行 新書館より)
「 白雪は降りかくせども千代までに
竹の緑はかはらざりけり 」 紀貫之 拾遺和歌集
竹は生長が早く冬でも青々としており、その旺盛な生命力は繁栄長寿、子孫繁栄の
シンボル、めでたいものとされてきました。
厳寒に真っ直ぐに凛として立つ姿は松、梅とともに「歳寒の三友」とよばれ、
節操の高い人にも例えられています。
雄雌の区別がなく、いきなり無から芽を出し、節ごとに中空がある不思議さは
神霊が宿るものとして竹取物語などの伝説も生み出されました。
そうした竹の力強さ、清潔さ、神秘性は今もなお多くの日本人の心を惹きつけて
やみません。
「 梅の花 散らまく惜しみ わが園の
竹の林に うぐひす鳴くも 」
巻5-824 阿氏奥島(あじのおきしま)
( 梅の花の散るのを惜しんで この我らが園の竹の林で
鶯がしきりに鳴いているよ )
730年2月 大宰府の大伴旅人邸で催された梅花の宴での歌三十二首のうちの一。
散る梅、竹、鶯を取り合わせた幻想的な世界を詠ったものですが、この時代に
早くも観賞用の竹が屋敷に植えられていたことを伺わせています。
「 御園生(みそのふ)の 竹の林に うぐひすは
しば鳴きにしを 雪はふりつつ 」
巻19-4286 大伴家持
( 御苑の竹の林で鶯がひっきりなしに鳴いていたのに。
雪はなおも降り続いていて - 春はまだ遠いのだなぁ-)
春冬の交錯に感慨をこめた歌。
竹に鶯の声、そして、しんしんと降る雪。
静寂さと音と動きがリアルに感じられる一首です。
御園生(みそのふ):貴人の庭園の植込み。
しば鳴きにしを:「しば」は「しきりに」
平安時代、清少納言も竹に興趣をしめし
「 あはれなるもの --
川竹の風に吹かれたる 夕暮、暁に目さまして聞きたる 」 (枕草子101段)
と、風にさやぐ竹林の情景を聴覚を通して印象深く書いています。
竹はイネ科の中でタケ亜科を構成し、いわゆる竹と笹類がこの群に属しています。
竹と笹の違いは、成長すると若い芽を包んでいる皮(稈鞘:かんしょう)が脱落するものを
竹(マダケ、ハチク、孟宗竹)、皮が枯れるまで付いているものが笹(メダケ、ヤダケ)と
されていますが、古代では厳密な区別はなされていませんでした。
現在良く見られる孟宗竹は江戸時代(1736年)に中国から琉球を経て薩摩藩に
渡来したもので、江戸城に献上されたのち、目黒の農家に栽培を目的として分け与えられ、
その後急速に繁殖したようです。
成長が早く加工しやすい竹は古代から生活になくてはならない有用の植物で、
その用途は驚くほど広範囲にわたっています。(末尾をご参照下さい)
また、桃山時代の茶道の隆盛とともに竹の道具にも芸術性、精神性が求められ
侘び、寂びの世界を演出してきました。
「 琴の音も 竹も千歳の声するは
人の思ひにかよふなりけり 」 紀貫之 後撰和歌集
力強い生命力、凛とした気品、簡潔で直線的ながら時には美しい曲線を描く応用自在の竹、
その数々の優れた特性の中に、今や失われつつある武士「もののふ」の心や、
後世に伝えるべき日本的精神が集約されているように思われてなりません。
「かたき地面に竹が生え
地上にするどく竹が生え
まっしぐらに竹がはえ
凍れる節節りんりんと
青空のもとに竹が生え
竹、竹、竹が生え 」
萩原朔太郎 竹(月に吠える所収)
ご参考 : 「竹の用途」
神事: 竹玉(竹を輪切りにして紐で貫く) 、結界、標、七夕の笹
食用:筍
薬用: 寒熱、吐血、清涼に効あり。 葉、根を用いる
日常用品:竿、杖、桶、筒、竹箒、物差し、扇、玩具、民芸品、竹炭、竹紙
楽器: 笛、笙、尺八
茶道具:茶器(茶筅、茶托)、花器、竹篭、
武器:弓、矢、旗竿
建築用材:壁の補助材、柱、垣根、水道竹管、
(桂離宮は使える場所にほとんど竹を使用)
その他: 漁具、農耕用具、運搬用具、貯蓄用具、護岸用に植樹
(以上)
by uqrx74fd | 2010-12-18 18:01 | 植物