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万葉集その三百五(探梅)

寒中梅(筑波山)
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「 探梅や 枝の先なる 梅の花 」    高野素十

『 探梅とは、まだ冬のうちに、春を待ちかねて野山へ早咲きの梅を探しに行く
 ことである。
 冬枯れのなかに春の兆しを探る。その心馳せが肝腎である。
 果たして梅の花に出会えれば結構なことだが、出会えなくても文句はない。
 (素十の)句は、梅を探ね歩いてやっと見つけた枝先の一、二輪の花だけ詠んで、
 言外に春を待つ思いを滲ませている。
 俳人のこのゆかしさも、梅に劣らない。』
                               ( 長谷川櫂 季節の言葉 小学館)
「観梅」と「探梅」。
一見同じ意味の言葉のようですが、「観」と「探」に微妙な季節の相違を鋭く感じ取り
「探梅」を冬の季語に取り立てたのは芭蕉とされています。

万葉集での梅は冬春の季節区分がなされておりませんが、雪降る中、
花を探し求める歌もあり、探梅の心は十分に持ち合わせていたようです。

「 我がやどの 冬木の上に 降る雪を
   梅の花かと うち見つるかも 」 
              巻8-1645 巨勢宿奈麻呂(こせすくなまろ)


( 我が家の庭の冬枯れの木の上に降る雪
  その雪を梅の花かと つい見間違えてしまったことよ )

梅の木を眺めながら、蕾はもう膨らんできたかとじっと目をこらしているうちに
何時しか雪が白梅に見えてきて- 。

「 ふふめりと 言ひし梅が枝 今朝降りし
        沫雪にあひて 咲きぬらむかも 」 
                      巻8-1436 大伴宿禰村上


( あの方が梅の蕾がもう膨らんできたよと言ってきてくれましたが、
  今朝の泡雪でもう咲き出したことでしょうか )

「 雪に出会ってその白さを競い合うようにして梅の花が咲いていることであろう」
の意(伊藤博)で、万葉人は春雨は櫻、雪は梅の開花を促すものと考えていたようです。

「 霜雪も いまだ過ぎねば 思はぬに
   春日の里に 梅の花見つ 」 
             巻8-1434 大伴宿禰三林


( 霜も雪もまだ消えやらぬのに 思いもかけず春日の里で 梅の花を見たことよ )

梅を探して春日の里へ。
中国から大宰府に渡来した梅は一部奈良の都に移され、まず最初に春日の里に
植えられたようです。
漢詩文の渡来とともに異国の花に出会った万葉人。
その気品ある姿と香りは多くの人々を魅了し、120首近い歌が詠まれています。

『 紅梅は白梅より少し遅れて咲く。
  そして冬と春とのせめぎ合う二月の雪や霙(みぞれ)や雨に、その色をにじませ、
  晴天には白梅と花の輝きを競いあう。
  紅白両花が咲き匂う季節は、春への人の動きも忙(せわ)しい時期であるが、
  梅のあたりに佇(た)つ人も行く人も淑として穏やかだ。 』
                          (馬場あき子 花のうた紀行より 新書館)

「 二月(きさらぎ)に入りて二度目の雪降りぬ
    雪降るなかの白梅紅梅 」     宮 柊二
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by uqrx74fd | 2011-02-07 20:43 | 植物

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