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万葉集その三百八(雉:きぎす)


「 あしひきの 青山越えて 我が来れば
   雉子(きぎす)鳴くなり その山もとに 」 良寛


我国の国鳥である雉は鶉鶏(じゅんけい)目キジ科の野鳥で、草原、畑地、雑木林などに
棲んでいます。
昔から代表的な狩猟鳥の一つとされていますが、その脚には振動を敏感に感じ取る
感覚細胞があり地震予知能力があるそうです。
繁殖期の春になると雄は「ケーンケーン」と勇ましく、雌は「チョンチョン」と可憐に
鳴き、その声を愛でて「雉のほろろ」ともいわれます。

「 大原の野を焼く男 野を焼くと
    雉(きぎす)な焼きそ 野を焼く男 」  正岡子規


雉は野が火事になっても逃げずに卵を守り、鶴は羽を広げて子鳥を寒さから守るので
「焼け野の雉、夜の鶴」という諺を踏まえた一首です。
「な焼きそ」は「焼くな」の意で「な○○そ」は禁止を表します。

万葉時代の雉は身を隠すことが出来ず、すぐに所在を知られてしまう鳥、
妻恋の心根の優しい鳥として詠われました。

「 杉の野に さ躍(をど)る雉(きぎし) いちしろく
   音(ね)にしも泣かむ 隠(こも)り妻かも 」  
                   巻19-4148 大伴家持


( 杉林の野で 鳴きたてて騒いでいる雉よ。
 お前さんは、はっきりと人に知られてしまうほどに大きな声をあげて
 泣くような隠り妻だというのか )

隠り妻とは通っている夫がいることを秘して閉じこもっている妻。
繁殖期の雉の雄鳥は雌を求めて朝方に急激に激しく、鋭く鳴きます。
作者はその鳴き声から雉が躍り上るさまを想像し、
雄鳥を「隠り妻でもないのにと」と茶化しています。
都で待つ妻、坂上大嬢(おおいらつめ)を思い出しているのかもしれません。

   「 あしひきの 片山雉 立ち行かむ
       君に後れて うつしけめやも 」 巻12-3210 作者未詳


( 片山に棲む雉 、その雉があわてて飛び立つように慌しく旅立っていかれるあなた。
  残される私はどうして正気でいられましょうか。)

「うつしけめやも」 「うつしけ」は正気 「めやも」は反語
慌しく出立する夫は防人に指名されたのでしょうか。
寂しさと、不安一杯の妻の表情を見て「気を確かに持て」と云われて答えた
歌と思われます。
あるいは、人の気も知らないで見送り騒ぎを作り出す人びとへの反発を下地に詠んだ歌
(伊藤博) とも。

「 人去って雉子(きじ)鳴くこだま滝の前 」    飯田蛇笏

by uqrx74fd | 2011-02-27 15:04 | 動物

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