万葉集その三百九(はねず:ニワウメ)

「はねず」は中国原産のバラ科の落葉低木で現在の庭梅(ニワウメ)とされています。
(他にモクレン、ざくろ、芙蓉、ニワザクラ説あり)
古代に渡来し、鑑賞を目的として栽培されている庭木で、高さは2m前後、
多くの枝を分枝し、こんもりとした感じの樹形です。
4月頃、新葉の芽吹きに先駆けて淡紅色(まれに白色)の小さな五弁の花を
密生して咲かせ、初夏には1、5cm位の赤い実をつけ、食用、または薬用(利尿、虫歯)として
採取されています。

「 山吹の にほへる妹が はねず色の
   赤裳(あかも)の姿 夢にみえつつ 」 
               巻11-2786 作者未詳(既出)


輝くばかりに美しい女性が赤い裳(スカートのようなもの)を翻しながら颯爽と
歩いている姿を夢に見ている男。
赤裳は当時の男性にとって憧れの衣裳でした。
山吹の黄色そして華やかで明るいはねず色。色彩感あふれる美しい歌です。

「 思はじと 言ひてしものを はねず色の
   うつろひやすき 我(あ)が心かも 」 
                 巻4-657 大伴坂上郎女


( もうあんな人のことなど思うまいと、きっぱりと口に出して言ったのに- -。
  なんと変りやすい私の心なのだろう。
  またあの人のことが恋しくてたまらなくなってしまうなんて- -。
  私は、はねず色のように移り気なのかしら 。 )

はねず色は紅花と梔子(くちなし)で染めた赤黄色で「朱華色」と書かれます。
685年に制定された服色規定では親王以上の皇族の色とされ、さらに701年の
大宝律令で黄丹(おうに)と呼ばれて皇太子の服色となり今日に至っています。
極めて上品な色ですが褪色しやすいので、万葉人は移ろいやすい恋の比喩に用いたのです。

「 はねず色の うつろひやすき 心あれば
   年をぞ 来経(きふ)る 言(こと)は絶えずて 」 
                        巻12-3074 作者未詳

( あなたさまは、はねず色のような移り気な心をお持ちなので、お会いできないまま
  年月を過ごしてまいりました。
  ただお便りだけは絶やさずに下さいますので何時かは私を訪ねてくださるものと
  期待しておりましたが- - )

次から次へと相手を変える移り気な男。
それなのに気をもたせるような便りは絶やさない。
もしやと淡い期待を持ち続ける純情な女。
結局男は戻ってこなかった?

「 夏まけて 咲きたるはねず ひさかたの
    雨うち降らば うつろひなむか 」 
                    巻8-1485 大伴家持

( 夏を待ち受けてやっと咲いたハネズ。
 そのハネズの花は雨でも降ると色が褪せてしまいそうだ。
 どうか雨よ降ってくれるなよ )

折角咲いた花をいたわっている歌ですが、恋の障害が起こらぬことを
願っているようにも思えます。
「 夏まけて 」: 夏が来ると

「 春落葉 浮けり小町の 化粧井戸 」 龍頭美紀子

京都山科、はねずの里、随心院での詠。
絶世の美女、小野小町が里の子供たちと遊び住んでいたと伝えられているお寺です。

その昔、深草に住む少将が小町に惚れて口説いたところ、
「 百日休まずに通ってくれたら意に添いましょう」と応えられた少将。
 雨の日も嵐の日も山を越えて訪れ、いよいよ最後の九十九日目。
 なんという運命のいたずらでしょうか。
 大雪に行く手を阻まれて志を果たせなかったのです。
 この故事に因んで毎年3月の終りに「はねず祭り」が催されます。
 小学生の女の子が美しいハネズ色の衣裳を着て踊りを披露いたします。

  「 曙や 郁李の匂ふ 家の前 」 青木月斗

           「郁李」(いくり):庭梅の別名 
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by uqrx74fd | 2011-03-07 20:14 | 植物

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