万葉集その三百二十七(豆色々)

( 豆の花)
b0162728_83962.jpg


『 マメというとインゲンマメやダイズをさすが、単に豆と表記されている場合には
  ダイズである場合が多い。
  ダイズは弥生時代後期に伝来したといわれる。
  木簡から確認されるマメ類は、大豆、白大豆、小豆、大角豆(ささげ)がある。
  ダイズは万葉時代に醤(ひしお)や味醤(みそ)、豉(くき)の原料にされたので
  利用度の高いことは現在と変わりはない。
      (筆者註: 豉(くき)とは今でも見られる大徳寺納豆など塩辛納豆の類)
  副食としての用途は、煎(いり)大豆、熬(いり)大豆、生大豆があり、加工品には
  大豆餅や小豆餅がある。
  煎大豆は、いわゆる煎り豆ではなく煮豆で、煮汁がなくなるまで煮つめることをいう。
  豆焦がしにあたるものは熬(い)り豆で、これから黄粉(きなこ)がつくられるので、
  熬り豆が大豆を乾煎したものであることが理解される。
  生大豆は、枝についたままのダイズ、つまり枝豆である。
  大角豆(ささげ)はアズキの代わりに赤飯に利用する地方もある。 』
                ( 広野 卓 食の万葉集 中公新書より)

 「 道の辺(へ)の 茨(うまら)の末(うれ)に 延(は)ほ豆の
         からまる君を 別(はか)れか行かむ 」 
          巻20の4352 丈部 鳥(はせつかべのとり) (既出)


  ( 道端のうまらの枝先に からまりつく豆の蔓(つる)。
    その蔓のように別れを悲しんですがりつくわが妻よ。
    そのような いとしいお前を残して旅立たなければならないのか。あぁー。)

上総の国(千葉南部一帯)の防人の歌です。
「君」は男性や主君をさすのが習いとされているので、主君の若君が近習である
作者を慕って離れないとする説(伊藤博)もあります。

大豆の原生種は野生のつる性の野豆とされ、「うまら」はノイバラ(野生のツルバラ)。
万葉集での豆はこの一首しかありません。
重要な食糧とされ、木簡にも多くみえるのに不思議なことです。


「 あしひきの 山行(ゆ)きしかば 山人の
   我れに得しめし 山苞(やまづと)ぞこれ 」
              巻20-4293 舎人親王(天武天皇の皇子)


( 人里離れた山を歩いていたところ、山の神人に出会いました。
 その方が私にお土産として下さったのが、この杖なのです。)

その昔、元正天皇が大和郡山市東方の山村に行幸され、都に戻った直後、
陪臣達に歌を奉れと仰せられて献じたもの。
山苞は山での土産の意ですがここでは「邪悪なるものを払う杖か」(伊藤博)と
されています。
苞(つと)はもともと食品などを包んだ藁の包すなわち藁苞(わらづと)をいい、
魚、貝類、山菜、木の実などを携帯しやすくした容器の意で、転じて土産を
意味する言葉として使われました。

藁には胞子状の納豆菌が棲息しているそうです。(1本のワラに1000万個)。
藁苞に煮豆を入れておき、高温多湿の状態にすると24時間で粘る糸を出して
納豆が生まれるといわれています。
古代の人は煮豆を藁苞に入れて持ち歩いているうちにネバネバとした豆に
変わったのに驚き、恐る恐る試食したところ、「これは美味い!」と
納豆作りをはじめたのでしょうか。

[ われつひに 六十九歳の翁にて
     機嫌よき日は 納豆など食(は)む 」   斎藤茂吉


「 枝豆を 煮てを月見し 古への
   人のせりけむ 思へばゆかしも 」    伊藤左千夫
 

枝豆は月に供えたり、月見の席に出されるので「月見豆」ともいわれます。
今ではビールの友に欠かせぬものですが、辻 嘉一氏は美味しい枝豆の茹で方を
下記のように伝授されています。 

『 総じて豆類は完熟すると実も皮も固くなりおいしくありません。
  そこで60パーセントくらいの未熟な時がいわゆる食べごろで
  一番おいしい頃であります。
  未熟の大豆を枝つきのまま塩茹でにするので枝豆と呼び、関西では
  田の畔に植えるのであぜ豆といいます。― 
  塩水を煮立たせた中へ大豆を入れ、蓋をしないで茹でると色よく茹であがります。
  しかし、本当の旨味は、水から塩加減の中でゆっくり軟らかく茹でて、
  蓋をしておき、冷えるのを待っていただくと、その味わいは素晴らしく、
  歯ざわりはむっちりして、味が深いものです。
  そのかわり褪色して茶っぽくなり、いくらでも食べられるので気をつけましょう。 』 
                 ( 味覚三昧 中公新書 より要約)

さぁさぁ これから晩酌をはじめるといたしましょうか。

「 枝豆に 藍色の猪口(ちょこ)好みけり 」 長谷川かな女
[PR]

by uqrx74fd | 2011-07-09 08:50 | 植物

<< 万葉集その三百二十八(夏美=菜...    万葉集その三百二十六(なのりそ... >>