万葉集その三百四十八(采女)

( 采女神社 奈良猿沢池前)
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(猿沢池にて)
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 采女とは地方豪族である国造(くにのみやっこ)が服属のしるしとして天皇に奉られた
 一種の人質で、その姉妹、子女の中から容姿端麗な女性が選ばれていました。
 また、国造は地方の政治だけではなく祭祀も司っていたので国造家の女性を
 采女として奉らせるということは朝廷が地方の祭祀権を掌握しその地域を支配する
 ことも意味しています。

 701年、大化の改新の詔により国造は郡司に任命され大領(長官)、少領(次官)となります。
 そして、采女も宮内省の管理下に置かれ水司(もいとりのつかさ)、
 膳司(かしわでのつかさ)という役所に属して天皇の食膳に奉仕する下級女官として
 位置づけられるようになり、中には従4位下の高級女官や本国の国造に出世したり、
 44年も勤続して80歳で退官した剛のものもいたようです。

 天皇に近侍する采女は、他の男性と縁をもつことを固く禁じられ、皇族といえども
 これに手をつけてはいけない、まして臣下からみれば雲の上の存在、憧れの女性
 だったのです。

「 采女の 袖吹きかえす 明日香風
      都を遠み いたずらに吹く 」 巻1-51 志貴皇子 (既出)


 采女のあでやかな姿を思い起こしている万葉傑作の一とされている歌ですが、
 作者もまた天智天皇と采女越智君の間に生まれた皇子でした。

 采女は天皇の食事の際の配膳が主な業務とされていますが、諸国から容姿に優れたものが
 献上されていたため、帝にみそめられて妻妾としての役割を果たすことも多く、
 子をなすものもいました。
 然しながら当時は母親の身分を重視する時代であったため、地方豪族出身の采女出生の
 子供は皇族や中央豪族の子に比べて低い立場に置かれていたようです。

日本書紀に
『 雄略天皇が采女とともに一夜を共にしたところ、女はみごもり女の子を産んだ。
 天皇は疑って自分の子と認めなかった。
 そこで大臣が「一夜にいくたびお召しになったのか」と聞くと
 天皇曰く「七回」。
 大臣「この子を産んだ采女は清い身と心を以って一夜をおつかえした。
    それをどうして疑うのか。」 
 そこで天皇はこの子を正式に皇女とし、母も妃とした。』 
というような逸話も残されています。

「 うちひさす 宮に行(ゆ)く子を ま悲しみ
       留(と)むれば苦し  遣(や)ればすべなし 」
               巻4-532 大伴宿奈麻呂(大伴旅人の弟)


( 宮仕えにいく子よ この子がいとおしくて仕方がない。
  引き止めるのは心苦しいし、そうかといって行かせるのもやり切れないことよ)

 「うちひさす」は「日が当たる」の意で宮の枕詞。  
 「ま悲しみ」は「ま愛しみ」の意。

 聖武天皇の采女として宮仕えに出かける大伴一族の女性を送る歌で、
 宮廷の内情に明るい作者が可憐な女性の行く末を思いやっている心情があふれています。

 なお、宿奈麻呂は719年備後の国守として安芸、周防2国を管する按察使(あぜち)に
 任じられ、異母妹坂上郎女と結婚し(正妻ではなかったらしい)のちに大伴家持の正妻となる
 坂上大嬢をもうけています。

「 敷栲(しきたへ)の 手枕まかず 間(あいだ)置きて
     年ぞ経にける 逢はなく思えば 」  
              巻4-534 安貴王(あきのおほきみ;志貴皇子の孫)


( あの子の手を枕にして寝ることもないままに長い時間がたち、とうとう年を
 越してしまった。
 あの子に逢っていないことを思うと切なくまた寂しいものだ。)

 この歌の注によると、作者は因幡の国出身の八上采女に対する想いを押えきれず、
 ついに通じて不敬罪に問われて配流されたことを悲しんで作った歌とあります。
 この歌の前に長歌があり
 「 この地にあの子がいないので胸が張り裂けそうだ。
   雲になり、鳥になって明日にでも逢い、お互い誰にも咎められずに心ゆくまで
   逢っていたい」と詠っています。

  作者には妻の紀郎女(きのいらつめ)や、鹿人太夫の娘の小鹿という妻妾がいたにも
 かかわらず、いい歳になって天皇の女性を寝取ったのですから尋常な仕業ではありません。
 よくもぬけぬけと詠ったものだと感心いたします。

  「 采女祭 糸で占ふ 縁結び」 河合佳代子

 奈良市の猿沢池湖畔にある采女神社で、毎年9月18日に采女祭が行われます。
 奈良時代のさる天皇(平城天皇か?)の寵愛を失った采女が猿沢池に投身自殺したとされ、
 その霊を慰める祭で謡曲「采女」はこのエピソードを題材にして作曲されたそうです。

( 謡曲 采女の由来 猿沢池にて )
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by uqrx74fd | 2011-12-03 11:10 | 生活

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