万葉集その三百五十四(笹)

( ササはやっぱりパンダ君  上野動物園 )
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( クマザサ 市川万葉植物園) 
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( 笹の群生 上野動物園 )
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( み湯立神事:奈良時代絵巻「おん祭り」の前の清め: 巫女が笹でたぎる釜から湯を振りまく。
  奈良の祭り: 野本暉房 東方出版 より )
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「ササ」はイネ科の竹亜科に属する植物でクマザサ、ミヤコザサ、ヤダケ、チマキザサ、
ネガマリダケなどがその仲間です。
竹の中でも比較的小さいものを「ササ」とよんでいますが、植物学的には
成長すると若い芽を包んでいる皮(稈鞘:かんしょう)が脱落するものを竹(マダケ、ハチク、孟宗竹)、
皮が枯れるまで付いているものがササとされています。

「笹」という字は葉の省略体である「世」に「竹」をのせたもので、風に吹かれた
葉の微妙な揺れや微かな音を「ささめく」、「ささやく」というところから竹の葉を
意識した国字だそうです。
また「ささ」は小さい、細かいという意味があり小竹とも書かれます。

「 小竹(ささ)の葉は み山もさやに乱(さや)げども
         我れは妹を思ふ 別れ来(き)ぬれば 」
                   巻2-133 柿本人麻呂


( 笹の葉は み山全体にさやさやとそよいでいるけれども
  私の耳にはその音も耳に入らない。
  別れきたばかりの愛しいあの子をただただ想うゆえに- -。)

現在の鳥取県西部、当時石見(いはみ)と呼ばれた地に官人として赴任していた作者が
任を終え都に戻る途中詠ったもので、恋の相手は現地妻、依羅娘子(よさみのおとめ)と
思われます。

再び会うことがない別れ。
見納めの山を後にして身を切られるような想い。
石見の海を遥かに眺めつつ妻の住むあたりを幾度か振り返り、ついには
視界を遮る神の山に対して「靡けこの山」(邪魔だ!動け!) と長歌で激しく詠う作者。
世に石見相聞歌として高い評価を受けている長短歌三首のうちの一です。

笹山が神の声を伝えるように揺れ動き、音を立てている。
古代の人たちにとって神は絶対的なものでした。
その神に対する恐れを物ともせず、愛する人との別れの悲しみを絶唱する人麻呂。
サ行の音の繰り返しが快く響く名歌です。

なお、「乱(さや)げども」を「乱(みだ)れども」と訓む説もあり、
「み山」の「み」は尊称で神が住むの意を含んでいます。

「 はなはだも 夜更けてな行き 道の辺(へ)の
    ゆ笹の上に 霜の降る夜を 」 
                      巻10-2336 作者未詳


( こんなにひどく夜が更けてから帰らないで下さい。
  道のほとりの笹の上に霜がしとどに置く寒い夜なのに )

寒夜に帰ろうとする男を引きとめようとする女。
「力感のある調べの中に女の真率な情がよく出ている」(伊藤博)一首です。

「ゆ笹」は「斎笹」で古代から「ササ」が神の拠りどころとして神事や神楽に
用いられていることを示しており、霜の白さと相まって清らかさを感じさせます。
また能の舞台でシテ(主役)がササを手にしていると、その人物が神憑りである
ことを象徴しているそうです。

「 笹の葉の さやぐ霜夜に 七重着(か)る
   衣に増せる 子ろが肌はも 」
            巻20-4431  防人の歌


( 笹の葉がそよぐこの寒い霜夜に七重も重ねて着る衣。
 その衣にもまさるあの子の肌よ。あぁ。一緒に寝たい!)

万葉集で詠われているササは五首。
そのうち四首が雪や霜と取り合わされており、冬の景物をされてきたようです。

「ササ」が風に吹かれさま「さやぐ」は視覚とともにに「サヤサヤ」という
軽快で爽やかな音感をもたらす効果があります。

よく使われる表現ですが下記は時代小説ながら格調高く書かれている一例です。

『 「 竹藪を渡ってくる風が何ともよい風情だ。 」
   武家は西日を浴びた丸窓を あごで指し示した。
   (料亭)折鶴が使う障子紙は、極上の美濃紙である。
   薄いながらも腰はすこぶる強い。
   その美濃紙の向こうから、強い西日が差している。
   陽は笹の葉を、影絵にして映し出していた。
    風が渡れば、笹がゆれる。
    揺れる葉は、葉ずれの音を立てている。
    西日が美濃紙に描く影絵は、笹ずれの音まで描き出しているかのようだ。 』
               ( 山本一力著 早刷り岩次郎  朝日文庫より)
     

「 短か日の 光つめたき笹の葉に
    雨さゐさゐと 降りいでにけり 」 北原白秋


ササの中でよく知られているのは「クマザサ」。
葉の縁が白いところからその名があり、よく「熊笹」と表記されますが本来は
「隈笹」とされるべきものです。

「 笹の葉に小路埋もれておもしろき 」 沾圃(せんぽ)
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by uqrx74fd | 2012-01-15 08:09 | 植物

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