万葉集その三百五十九(雪の梅)

(筑波山梅林)
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( 雪か梅か  下曽我梅林)
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( 梅一輪  亀戸天満宮 2012,2,17撮影)
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立春はもうとっくに過ぎたというのに、北の国では吹雪が猛威を振るい、東の国も
朝夕は未だに氷点下。
この寒さに恐れをなしたのか、梅の花も気の短い慌て者だけがほんの少し頭を
出しながら「何時咲こうかなぁ」と思案気な様子です。
古の人たちは、なかなか訪れない春の便りにとうとう痺れを切らし、
雪を梅に見たてて、まだか、まだかと急き立てるように詠っています。

「 たな霧(ぎ)らひ 雪も降らぬか 梅の花
    咲かぬが代(しろ)に そへてだに見む 」
                        巻8-1642 安倍奥道(おきみち)


( 空一面にかき曇って、雪でも降ってこないものか。
 梅の花が咲かない代わりに、せめてそれを梅とでも見ように。)

「たな」はすっかりの意でここでは空一面に。
「代(しろ)」は代わりに。
「そへてだに見む」は「なぞらえて見る」

春の訪れを切ないほどに待ち望む気持ちを雪梅に託した作者です。

「 我が岡に 盛りに咲ける 梅の花
     残れる雪を まがへつるかも 」 
                             巻8-1640  大伴旅人


( 我が家の岡に真っ盛りに咲いている白梅の花、
 あまりの見事な白さに消え残りの雪と見間違えてしまったことよ。)

一見、梅の盛りの歌と思いきや、この歌は冬の雑歌の中に編入されています。
伊藤博氏は『この歌は冬の雪見の宴において雪を梅に見立てた作なのかもしれない。
冬木の枝に白く積もる雪を、つい花と見てしまうことは誰にでもある。
編者の粗忽による手違いでなければ、雪の梅花をほんとうの梅花のように
詠ったのがこの一首だと見ざるをえない。』
と述べておられます。(万葉集釋注)

「 梅の花 散らくはいづく しかすがに
      この城(き)の山に 雪は降りつつ 」
                     巻5-823 伴氏百代(ばんじのももよ)


( 梅の花が雪のように散るというのはどこなのでしょう。
 そうは申しますものの、この城の山にはまだ雪が降っています。
 散る花は雪なのですね )  

城の山は大宰府北方の四王子山。
この歌は大宰府の大伴旅人邸で催された有名な観梅の宴の席上で主人が詠った

「 我が園に 梅の花散る ひさかたの
      天より雪の 流れくるかも 」
                           巻5-822 大伴旅人(既出)


に続いたものです。
旅人が「梅の花が吹雪のように散っている」といったのに対して、
「いやあれは梅ではありますまい。本物の雪ですよ」と詠ったのですが、
宴は主人をまず立てて褒めるのが習い。
それをあえて否定する歌、取りようによっては礼を失することになります。

伊藤博氏は後の人が詠いやすいように「あいつ野暮だなぁ」と笑いものになるよう
道化役を買って出たのではないかと推定されていますが、宴は現在の暦で2月8日。
正直もので融通のきかない作者は事実をありのままに詠ってしまったのかもしれません。

「 この道をわれらが往くや探梅行 」  高濱虚子

「観梅」といえば昔も今も春のものですが、厳寒の中せめて一輪の梅でもと求めて
歩きまわる冬の「探梅」。
昔も今も、はやる気持ちを抑えきれないのは同じなのですねぇ。

以下は 柴田流星著 「残されたる江戸 」(中公文庫)からです。

『 何事にも走りを好む江戸ッ児の気性では、花咲かば告げんといいし使いの者を
  待つほどの悠長はなく、雪の降る中から亀戸の江東梅のと騒ぎまわって
  蕾一つ綻びたのを見つけてきても、それで寒い怠(だる)いも言わず、鬼の首を
  取りもしたかのように独り北叟笑(ほくそえ)んで、探梅の清興を恣(ほしいまま)に
  する。 』 
  
ともあれ、日ごとに待ち遠しさが募る春の訪れです。

『 梅のたよりが届くころは陽気も穏やかに日差しもやわらかになる。
  関西の古都の梅をたずねる旅がしたくなる。
  名所の梅林の芳香と、紅白の花の光につつまれる幸福感もたまらないが、
  冬から春へひっそりと蘇りの色をみせる寺社の片隅に、
  純白の光を転じているような梅の心憎さは格別である。』 
                             (馬場あき子 花のうた紀行 新書館)

「 寒梅の 唯一輪の日向(ひなた)かな」 高濱年尾 

( 亀戸天満宮 紅梅は満開 2012,2、17) 
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by uqrx74fd | 2012-02-18 20:57 | 生活

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