万葉集その四百二(葛いろいろ)

( 葛の葉と冬枯れの実  皇居東御苑にて )
b0162728_1612445.jpg

( 巨大な葛の根  吉野山にて)
b0162728_16124782.jpg

(  同上 )
b0162728_1613321.jpg

( 吉野葛販売店  吉野山にて )
b0162728_16132783.jpg

( 森野旧薬園製の本葛  江戸時代からの薬草園 )
b0162728_1614838.jpg


葛はマメ科クズ属の大形蔓性の多年草で、元々「くずかづら」とよばれていました。
全国至るところに見られる植物ですが、奈良県吉野山の近くに国栖(くず)という
村があり、昔、村人たちが葛の根から澱粉を採り、葛粉にして諸国に売り歩いたので
その地名が植物名になったといわれています。
吉野人にとっては、 「葛と娘はわしらが自慢、とって見せたい雪の肌」なのです。

「 ひかへめな 色に惹かれて 葛の花 」  稲畑汀子

葛は夏から初秋にかけて赤紫色の蝶形花を穂のように密生させて咲かせます。
野性的な力強さを感じさせ、近づくと微かにブドウのような匂いが - 。
花が終わるとサヤエンドウの様な花菓をつけるのも面白い。

「 花葛の 匂ふと聞けば 匂ふかな 」 川上朴史


万葉集で葛の「花」が登場するのは、山上憶良が詠んだ秋の七草の1首のみ。
残りの17首は、這う葛、葛葉、真葛原などと詠われています。

旺盛な生命力の持ち主の葛。
葉は大きく、それを支える地下茎は何十メートルにも広がります。
時には厄介者となる存在ですが、古代の人々はその特性を上手く生かす知恵を
持っていました。
乾燥させた花を煎じて二日酔いや酒毒を消し、茎は布の素材、根は葛粉や
薬湯にするなど、生活に密着した植物として用いたのです。

「 雁がねの 寒く鳴きしゆ 水茎の
   岡の葛葉は 色づきにけり 」
                巻10-2208 作者未詳


( 雁が寒々と鳴いてから 岡に茂る葛葉はすっかり色づいてきたよ )

雁の訪れとともに色鮮やかな黄葉。
深まりゆく秋をしみじみと感じさせる一首です。
「水茎の」は岡の枕詞で、掛かり方は不詳。

「 をみなへし 佐紀沢の辺(へ)の 真葛原
     いつかも繰りて 我が衣(きぬ)に着む 」 
                        巻7-1346 作者未詳


( 佐紀沢の辺りの葛が生い茂る野原、あの野の葛は何時になったら糸に繰って
 私の着物として着ることが出来るのだろうか )

「をみなへし」は秋の七草の一つですが、ここでは佐紀沢の枕詞。
佐紀沢は奈良市佐紀町の沼沢地、平城京跡の近くです。

古代の人は葛の蔓(茎)を水で煮て繊維を取り出し、様々な衣類を織っていました。
ここでは、葛を幼い少女に譬え、「自分の衣として着る」すなわち
「あの子といつになったら夫婦になれるのかなぁ」と詠っています。

「 赤駒の い行(ゆ)きはばかる 真葛原
    何の伝(つ)て言(こと) 直(ただ)にし よけむ 」
                       巻12-3069  作者未詳


(  元気な赤駒でも行き悩む真葛原ではないが、まぁなんとじれったいこと。
  言伝てなんて。
  じかに会うのが一番なのに )

一面の葛野原。
地面を這う大きな葉と蔓が馬の行く先を阻みます。
この歌は恋人が何らかの事情で来ることが出来なくなり誰かに伝言を頼んだ
ものと思われますが、女性のイライラした気持ちを
「赤駒の い行(ゆ)きはばかる 真葛原」とは面白い表現をしたものです。

「 みづ茎の 岡の葛葉を 吹きかへし
    面(おも)知る子らが  見えぬころかも 」
                      巻12-3068 作者未詳


( 岡の葛の葉を風が吹き返して、裏葉の白さが目に付くように
 はっきりと顔を見知っているあの子が、一向に姿を見せない今日このころだ )

葛の葉は大きい上、裏が白いので風に靡くと波が立っているように見えます。
この歌の「吹きかへし」に「裏葉の白さ」さらに「よく目立つ」の意を含ませおり、
新しいセンスを感じさせる一首です。

「 葛の 風に吹き返へされて 裏の いと白く見ゆる をかし 」 枕草子 54段

平安時代になると葛は「裏見草」ともよばれました。
さらに、「恨み」を掛けて恋の辛さを詠うようになります。

「 秋風は すごく吹けども 葛の葉の
    うらみがほには 見えじとぞ思ふ 」 
                  和泉式部 新古今和歌集


( たとえ秋風が冷たく吹いても、葛の葉は裏を見られまいと思っておりましょう。
 私も夫の仕打ちがつらくても、恨んでいるよう見られまいと心掛けているのです。)

橘道貞の妻となり、一女をもうけながらも破綻し別居。
夫に忘れ去られた気持ちを秋風=夫 葛の葉=作者に譬えた一首です
 尤も、その後、恋の悩みなど さっさと忘れて華麗な恋愛遍歴が始まりますが- -。

「 葛の葉の 恨み顔なる 細雨(こさめ)哉 」 蕪村

明治時代になってもなお続く「恨みの葉」です。

「 葛掘りの わりなく枯らす 桜かな」  自笑 

葛粉は葛の塊根を秋から春にかけて発芽前に掘り取り、泥を洗って適宜の長さに切り、
叩き潰して臼で引いたものを布袋に入れ、水でもみ出し、沈殿させて採取したものを
さらに漂泊乾燥して作られます。
巨大な根を掘り出すだけでも大変な重労働なのに、葛根に含まれる葛粉の割合は僅か
1~2%しかありません。
そのため値段も高価。一般に葛粉と称されているものの成分は馬鈴薯などの澱粉が
ほとんどです。
 ( 奈良では本葛100%のものが50~100g単位の袋入りが売られている)

葛餅、葛切り、葛饅頭、葛あんかけ。
また風邪の時に飲んだ葛湯の味も懐かしい。
有名な葛根湯(漢方薬)もいまだに健在です。

「葛の花 
   踏みしだかれて
   色あたらし
   この山道に行きし人あり」    釈迢空

[PR]

by uqrx74fd | 2012-12-15 16:15 | 植物

<< 万葉集その四百三(華麗なる送別の辞)    万葉集その四百一(馬来田:まくた) >>