万葉集その四百十四 (雪中梅)

( 筑波山梅林 )
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( 同上 )
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( 同上 )
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( 同上 )
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( 同上)
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( 同上 )
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( 同上 )
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( 同上 )
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梅はもろもろの花にさきがけて咲き、春告げ草、花の兄、匂ひ草、好文木とも
よばれています。
好文木とは晋(しん)の武帝の故事
「 文を好めばすなわち咲き、学を廃すればすなわち開けず」によるもとされ、
水戸偕楽園の「好文亭」はその由来に因んだそうです。

紅梅がまだなかった万葉時代、梅はすべて白。
人々は、朝起きるや否や窓を開け、目をこらしながら白い花が咲いていないかと探し、
時には木々に積る雪を梅かと見まがい、舞い落ちる雪を「花びらが流れるよ」と
詠いながら春の訪れを心待ちにしていました。
そして、遂に我慢ができなくなって、「せめて一輪なりとも」と思い立ち、
探梅に出掛けたのです。

その昔、ある日のことです。
「そろそろ梅も咲く頃だろう」と山の麓に住む友人を訪ねた男がいました。
着いてみると梅はまだ固い蕾のままで、おまけに雪まで降っている始末です。
出迎えた主人は
「遠路はるばるよくお越しくださいました、まぁまぁ兎も角、上へ」と招じ上げ、
酒席を整えます。

雪景色を肴にしながら旧交を温め、一献また一献。
お互いに近況などを語り合いながら、おもむろに主人が詠います。

「 山 高(だか)み 降りくる雪を 梅の花
     散りかもくると 思ひつるかも 」 巻10-1841 作者未詳


( このあたりは山が高いので 雪がはらはらと降ってまいります。
 折角お越しいただいたのに、生憎 梅はまだ蕾のまま。
せめて風に吹かれて舞い降りてくる雪を梅の花びらに見立てて
私のおもてなしと思って下さいませ。)

客が返します。

「 雪をおきて 梅をな恋ひそ あしひきの
    山 片付きて 家居(いえゐ)せる君 」 巻10-1842  作者未詳


( せっかくのこの美しい雪をさしおいて 梅の花など恋慕ったりなさいますな。
山裾に結構な家を構えてお住まいのあなたさま )

「山、片付きて」とは「片方が物に近接する」で、ここでは「山裾に」の意です。

この二首は「問答」と記されている歌の会話ですが、まず

「 遠路お尋ね戴いたのに、いまだに雪が降り覆う山家。
本来ならおもてなしするはずの梅もこの有様です」と

主人が客を気遣ったところ

「 なになに、雪景色と風流なお住まいで十分満足いたしております。
  どうか気に召さるな 」と応えたもの。

しんしんと降り積もりゆく雪を眺めながら杯を交わし、互いに
心遣いをし、されながらの粋なやり取り。
作者未詳ながら、品位と友情の暖かさが感じられ、ほのぼのとした気持ちに
させてくれる歌です。

「 雪の色を 奪ひて咲ける 梅の花
     今盛りなり 見む人もがも 」 巻5-850 大伴旅人


( 雪の色を奪うかのように 真っ白に咲いている梅。 
  この花は今が真っ盛り。
  共に見る人がいればいいのになぁ )

まだ寒さ厳しい中、一輪また一輪と、いかにも恥じらうように顔を見せ、
やがて水温む頃、あたかも天から舞い降りてきた雪かと見える花が
一斉に咲き、辺り一面に甘い香りを漂わせる梅。

作者は2年前に妻、大伴郎女を亡くしていました。
「共に見ようと楽しみにしていたのに」
花が華やかであればあるほど寂しさが募ってくるようです。

「 残りたる 雪に交(まじ)れる 梅の花
    早くな散りそ 雪は消(け)ぬとも 」巻5-849 大伴旅人


( 消え残る雪に交って咲いている梅の花 早々と散らないでおくれ。
 たとえ雪が消えてしまっても )

花が散りはじめ、残り少ない花の上に雪が降り積もりました。
折角の花を散らすなと詠う作者。
酒好きな旅人は杯を傾けながら、花の宴の余韻を楽しみ、風流なひと時を
過ごしていたことでしょう。

「 春の野に 霧立ちわたり 降る雪と
     人の見るまで 梅の花散る 」 
             巻5-839  田氏真上(でんじのまかみ)


( 「あれは春の野に霧が立ちこめて、真っ白に降る雪なのか」
  と皆が見まごうほどに、この園に梅の花が散っていることです )

風に吹かれて舞いながら散る花びら。
雪か花かと見まごうばかりの情景です。
万葉人にとっての花見は桜ではなく梅だったのです。

「 筑波嶺の 大谷小谷 春霞」 皆川磐水

数年前の3月4日、筑波山に登ったときのことです。
前日に大雪が降り、満開の梅が雪に埋まったことがありました。
全山真っ白。
紅梅が所々で顔を出し、「花はここだよ」と教えてくれます。
遠くから見る白梅は雪と区別がつきません。

万葉人もこのような雪中梅を目の当たりにしながら、有頂天になったことでしょう。

「 梅白し まことに白く 新しく」  星野立子
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by uqrx74fd | 2013-03-09 11:49 | 植物

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