万葉集その四百二十七(菖蒲と杜若)

( アヤメ  花の基部に網目の文様がある 乾燥した土地を好む)
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( カキツバタ  花の中心に白い線がある  水辺を好む )
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( 山の辺の道 長岳寺のカキツバタ )
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( ショウブ(菖蒲)  花に見えない花   葉は香り高い サトイモ科 )
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(  ハナショウブ 堀切菖蒲園 )
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(  ハナショウブ  堀切菖蒲園  )
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( ハナショウブ  滝谷花しょうぶ園 奈良県  )
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 ( 潮来の花摘み娘 )
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「節(せち)は五月(さつき)にしくはなし 
 菖蒲(さうぶ)、蓬(よもぎ)などの香り合いたるも
  いみじうおかし 」      (枕草子35段)


( 節句は五月五日にまさるものはありません。
 菖蒲や蓬など匂い草が入り混じって薫りあっているのも
 大変 趣深いことです )

菖蒲(しょうぶ)はサトイモ科の多年草で水辺に群生する植物です。
初夏に葉の途中から花穂を出し、黄緑色の小花をびっしりとつけますが
それは花というより、棒状のアイスキャンディ(?)のように見えます。
葉は香り高く薬効があり、昔から邪気を払い疫病を除くと云い伝えられ、
端午の節句に軒に葺いたり、菖蒲湯をたてる習慣は現在でも続いています。

万葉集での菖蒲は12首。
いずれも「あやめぐさ」と云う名で詠われています。

「 ほととぎす 今来(いまき)鳴きそむ あやめぐさ
    かづらくまでに 離(か)るる日あらめや 」
                     巻19-4175 大伴家持


( ホトトギスが今やっと来て鳴きはじめました。
 あやめ草を鬘(かずら)にする5月の節句まで、声が途絶えることはあるまいだろうな。)
 

ホトトギスの初音を心待ちにしていたに家持。
ようやく待望の声を聴き、せめて節句まで鳴きつづけて欲しいと願っています。
鬘(かずら)は菖蒲や蔓草、花などを編んで頭飾りにしたものです。

この歌の脚注に「も、の、は」を使わないで詠ったとあり、使用頻度が多い助辞を
省くという一種の言葉遊びだったらしく、宴会などで詠われたのかもしれません。

「ハンカチに 摺って見せけり かきつばた 」  牧野富太郎

作者はある年の6月、広島県安芸の国の北境、八幡村で広さ数百mにわたる
満開のカキツバタの野生群落に出会い、その壮観を極めた情景に感激し、
興を催して沢山の花を摘んでその紫汁でハンカチを染めたり、白シャツに
摺りつけてみたら、たちまち美麗に染まったので大いに喜び、
この句を詠んだそうです。
                     ( 植物知識 講談社学術文庫 )

  「白シャツに摺りつけてみる かきつばた 」 牧野富太郎 (同上)

「かきつばた」の語源は「掻きつけ花」が転訛したものといわれています。
「掻きつける」とは「摺りつける」という意味で、花汁を布にこすり付けて色を移し、
「摺り染め」にすることをいいます。
「カキツケハナ」→「カキツハナ」→「カキツハタ」と変わり、現在の「カキツバタ」に
なったそうです。
語尾の「ハタ」は「ハナ」の変異形です。

 「見劣りの しぬる 光琳屏風かな 」 牧野富太郎 (同上)
     
空前絶後の傑作といわれている尾形光琳の「燕子花図屏風」もここでは形無しと
興じている作者。
杜若はその形が燕に似ていることから燕子花とも書いてカキツバタと
訓ませています。

カキツバタの蕾は「筆花」ともよばれており、切花にはこの時期のものが
最適だそうです。

『 アイヌ語でカキツバタを“カンピ・ヌイエ・アパッポ ”(手紙を書く花)と
 いうそうだがこれは蕾から筆を連想したものか、あるいはこの花の色素を
 インク代わりに手紙書きに利用するという意味からか不明であるが、
 とにかく余情的な美しい名前である。』
                      ( 麓 次郎 四季の花事典より)

「 我(あ)れのみや かく恋すらむ かきつはた
     丹(に)つらふ妹は いかにか あるらむ 」 
                       巻10-1986 作者未詳


( 私だけがこんなに切なく恋焦がれているのであろうか。
 かきつばたのように紅い頬をしたあの子は 一体どんな気持ちでいるのだるうなぁ )

自分はこんなに苦しんでいるのに相手はどうなのだろう。
憧れている女性の頬の色はほんのりとした赤。
当時のカキツバタは赤紫が多かったのでしょうか。

「 菖蒲 燕子花は いずれ姉やら妹やら 分きていわれぬ花の色え 」
             ( 歌舞伎舞踊「京鹿子娘道成寺」の台詞)


ここでの菖蒲はアヤメ科の文目(アヤメ)です。
菖蒲(しょうぶ)という字をアヤメと訓むようになってから混乱が生じはじめました。
更に花菖蒲という園芸種が出現することにより益々ややこしくなりましたが、
気を付けて見ると各々特徴があり、見分けることが出来ます。

  「 杜若 語るも旅のひとつ哉 」 芭蕉

ご参考 
1、菖蒲(しょうぶ)と文目(あやめ)違い


菖蒲(しょうぶ)   サトイモ科、古くは「あやめ草」といった
文目(アヤメ)    菖蒲とも書く(広辞苑) 
                    ショウブとは別種のアヤメ科 
                    同じ仲間にカキツバタ、ノハナショウブがある。
              
2、アヤメとカキツバタの違い (いずれもアヤメ科)

   1、生育地   アヤメ  乾燥地を好む
            カキツバタ 浅い池や湿地に咲く

   2、花びら:  アヤメ  花びらの根元に黄と紫の網状の模様がある。
            カキツバタ  網目模様なし、
                     中央に鮮やかな白い筋が一本通っている

   3、花の茎:     アヤメ 内部が充実、
     カキツバタ   中空(これは切ってみないと分らない)

3、ハナショウブ(花菖蒲)  

ノハナショウブを園芸用に改良されたものでアヤメ科に属する

  湿地でも乾燥地でも栽培出来、剣のような細長い葉の中央線が突出して
  ふくれているところが文目(アヤメ)やカキツバタと違う。
  花も大きく色も紅紫、紫、白、淡紅と様々。
  模様も変化に富むが、花びらに黄と紫の網目はない。
  ( 菖蒲園で一番多く見られる )


ご参考 万葉集遊楽108( 菖蒲:あやめ草)
    同    110 (かきつばた))
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by uqrx74fd | 2013-06-08 17:40 | 植物

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