万葉集その四百三十(紅花栄う)

( 長福寿寺の紅花 10万本の群生  千葉県長生郡長南町 )
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( 同上  2013年6月23日撮影 )
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(  ベニシジミと紅花  同上 )
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( モンシロチョウも   同上 )
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( 紅花栄う   同上 )
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( 葉っぱと思ったら蛙でした  同上)
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 ( 紅染めの体験   同上 )
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(  長南紅花の由来  同上  画面をクリックすると拡大できます )
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我国には春夏秋冬の四季のほか立春、立夏などの二十四節季、さらに季節それぞれの
出来事をそのまま名前にした七十二候という区分があります。
「紅花栄う」もその一つで、新暦でおよそ5月26日~30日。
そのあと「麦秋に至る」「蟷螂(かまきり)生ず」「腐草(ふそう)蛍と為る」と続き、
いずれも自然と共に生きた日本人の繊細な季節感覚が窺われる言葉です。

紅花はエジプト、エチオピアなどアフリカ原産とされ、シルクロード、中国を経由して
我国にもたらされました。

1991年、邪馬台国の有力候補地とされる奈良県桜井市の纏向(まきむく)遺跡から
大量の紅花の花粉が発見され、綿密な調査分析の結果、3世紀中頃には
加工技術を携えてきた渡来人がこの地域で染物や化粧品などの生産をしていたことが
判明しました。
卑弥呼が魏の皇帝に献じた赤色の織物は、これらの紅花が使われた可能性も
あるとされ、遥か太古のロマンティックな世界へと私たちを誘ってくれます。

紅は古代人が最も憧れた色の一つでした。
太陽,火、さらに命の動脈である血液の色からから燃えるような生命力と情熱を
感じ取ったのでしょうか。
万葉集で詠われている紅は34首、その大半が恋の歌なのです。

「 紅に 衣(ころも)染めまく 欲しけれど 
        着て にほはばか 人の知るべき 」 
                    巻7-1297  柿本人麻呂歌集


( この着物を鮮やかな紅色に衣を染めたいと思うけれども、出来上がって着たら
 色が目立って 私が恋をしていると人に気づかれてしまうでしょうか )

恋人が憧れる紅色の衣に染めて喜ばせたいが世間の目が怖い。
当時、人の噂になると恋が成就しなくなると信じられていたのです。

「着て にほはばか」は紅色に染めた衣を着て輝くように美しくなったらの意で
「にほふ」は嗅覚ではなく視覚を表現する言葉として使われており、
「春の苑(その) 紅(くれなゐ)にほふ 桃の花」と美しく詠ったのは大伴家持です。

「 百姓の 娘顔よし 紅藍(べに)の花 」   高濱虚子

紅花の栽培地は山形県の月山の麓や最上川のほとりがよく知られていますが、昔は
伊勢、武蔵、上総、下総など二十四か国が税として納めており、出羽最上が産地として
台頭するのは江戸時代からです。
その種は長南(千葉県)からもたらされたとも伝えられていますが、
花が成長する春から夏にかけて朝霧が立ち、直接日光が当たる時間が短い場所が
栽培の最適地とされていました。

「 紅摘みに 露の干ぬ間と いふ時間 」   田畑美穂女

花を摘む作業は刺(とげ)がチクチクと皮膚を刺すので、早朝、朝露で刺が
柔らかくなっている間に行い、茎の先端に咲く花を摘み取ることから
「末摘花」ともよばれています。

「 外(よそ)のみに 見つつ恋ひなむ 紅の
      末摘花(すえつむはな)の 色に出でずとも 」 
                         巻10の1993   作者未詳(既出)


( あの方が 色鮮やかな末摘花のようにはっきりと私のことを好きだと
  素振りに見せて下さらなくともいいのです。
  私は遠くからそっとお慕いしているだけで )

紅花を末摘花と表現した唯一の歌です。
燃えるような情熱を内に秘め、ひたすら相手を想う純情な乙女。
「心が通じて結ばれるといいな」と感じさせる1首です。

次の歌は地方勤務の官吏とみられる男が都に転勤するにあたり現地妻との
別離を悲しむやりとりです。
まずは女性から。

「 かくしつつ あり慰めて 玉の緒の
     絶えて別れば  すべなかるべし 」  巻11-2826 作者未詳


( 今までこのようにお互いに心を慰め続けてきましたが、
  これからは玉の緒が切れるように仲が絶え
  別れ別れになったら 何とも遣る瀬が無いことでしょうね。)

「 紅の 花にしあれば 衣手に
               染め付け持ちて 行くべく思ほゆ 」 
                            巻11-2827 作者未詳


( お前さんがもし紅の花であったなら 着物に染めつけて持っていきたいほどに
  思っているのだよ )

「玉の緒が絶える」とは、「お互いを結びつけていた絆も切れ、自身の命も
息も絶え絶えになる」という切実な想いです。
二度と逢えない悲しみが切々と伝わってまいります。
 

「 人知れず おもへば苦し 紅の
        すゑつむ花の 色にいでなむ 」   読み人知らず 古今和歌集


( あの人に知られないままに こっそりと想っているので苦しいことです。
  いっそのこと、あの紅色の末摘花のように はっきりと態度にだしてしまおう。)

前記の万葉歌(10-1993)を本歌取りしたもの。
こちらは秘めたる恋は苦しいので、いっそのこと相手に告白しようかと詠っています。
でも、うっかりすると刺(とげ)に刺されそうですね。

「 紅の花 刺あることを 君知るや 」 加藤晴子


    ご参考   万葉集遊楽68 (紅:くれない)
             同     221 (紅花)
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by uqrx74fd | 2013-06-29 08:19 | 植物

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