万葉集その四百三十七 (クソカズラ)

( クソカズラ 小石川植物園 2013、7、21撮影)
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( 同上 )
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( あちらこちらに絡みつくクソカズラ蔓 花は小さい  同上 )
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( ジャケツイバラ    yahoo画像検索より )
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「 名を へくそかずらとぞいふ 花盛り 」   高濱虚子

屎蘰(くそかずら)。
万葉人は何というひどい名をつけたのでしょう。
これはイヌノフグリと共に醜名(しこな)の双璧ではありますまいか。
現在では、さらに頭に「へ」が付いて「ヘクソカズラ」とよばれる始末です。

アカネカ科、蔓性多年草のこの植物は山野にごく普通に自生し、
木や竹に絡みながら伸びますが、茎や葉を揉むと悪臭がするのでその名があり、
英名も「skunk vine 」(スカンクの蔓)。

ところがその茎や根に含まれるアルブチンに抗菌、紫外線吸収作用があり、
化粧水に配合されているというのですから面白い。
昔はあかぎれや霜焼け(しもやけ)の治療に用いていたという有用の植物なのです。

田植えの頃、赤紫色の可愛らしい小花をつけるとことから「早乙女花」、あるいは
火のついた艾(もぐさ)のように見えるので「灸(やいと)花」という別名もあるのに、
可愛そうに、そのようによばれるのは稀のようです。 

万葉集ではただ1首。
宴席で物の名前を詠みこむというお遊びの中で登場します。

「 菎莢(ざふけふ)に 延(は)ひ おほとれる 屎葛(くそかづら)
     絶ゆることなく 宮仕へせむ 」
           巻16-3855 高宮王(たかみやの おほきみ)既出


「 延ひ おほとれる」 は長く絡みながら延びてゆくさま。

菎莢(ざうけふ)は「かわらふじ」とも訓まれ、マメ科の「ジャケツイバラ」。
(マメ科落葉高木「さいかち」説もあり)、
幹や枝に棘(とげ)があり、花は鮮やかな黄色。
5弁の花びらは丸みを帯び、蕊(しべ)が長く、真中から外へ飛び出しています。

この歌は、菎莢(ぞうけふ)を朝廷、「屎葛」(クソカズラ)を自分に喩え、

「 カワラフジの木にいたずらに這いまつわるクソカズラ。
  その蔓さながらに不肖私めは何時何時までも宮仕えしたいもの。
どんなことがあっても役所を辞めないでしがみ付いていましょう。 」と
現在でも使えそうなセリフで詠っています。

いささか自嘲気味の作者。
能力ゆえか、あるいは出自が重んじられ、世襲制や派閥が強かった朝廷にあって
出世を諦めたのでしょうか。

華やかな花の蔭に鋭い棘を持つジャケツイバラを権謀術数渦巻く朝廷に例えたのは、
作者の精一杯の皮肉といえなくもありません。

「 万葉の世に歌はれし へくそかずら
       わが生垣に からみつつ咲く 」    増井多恵子


久しぶりに小石川植物園を訪れました。
不思議なことに田植えの頃に咲く早乙女花、ヘクソカズラが真っ盛り。
生命力が強い植物故、秋まで咲続けるのでしょうか。
近くに寄っても嫌な匂いはしません。
さわったり、傷つけたりしない限り臭わないということは、繁殖のための
自衛とも云える性(さが)なのでしょうか。

小さくて可憐な花。
やはり、「早乙女花」とよんであげたいものです。

   「 秋されば へくそかずらの花にさへ
         うすくれなゐの いろさしにけり 」 尾山篤二郎

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by uqrx74fd | 2013-08-16 18:15 | 植物

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