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万葉集その四百四十一 (露草)

( 露草 山の辺の道 )
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( 露草 向島百花園 )
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( オオボウシバナ(ツユクサ科) 小石川植物園 2013,7,21 撮影 )
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( アカバナツユクサ  小石川植物園 )
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ツユクサは山野、道端、畑地など、いたるところに自生しているツユクサ科の1年草で、
6月から9月にかけて夜明けと共に蛤のような形をした瑠璃色鮮やかな小花を咲かせます。

太陽が上るとともに萎んでしまう1日草なので、その姿が儚い朝露を連想させる、
あるいは露をおびて咲くのでその名があると云われていますが、
「色に出た露の精」(徳富蘆花)という美しい賛辞を贈られている心惹かれる花です。

古くは染料に用いられ、臼で搗(つ)いて染めたので「ツキクサ」とよばれていましたが、
万葉集では月草という表記が多いため、
「夜の暗いうちから月の光を浴びて咲くので月草という」(新井白石)という
ロマンティックな解釈もなされています。(通説ではない)

ツキクサで染めた着物は色が不安定で褪せやすかったため、古代の人は
洗濯の度に摺りつけを繰り返さなければなりませんでした。
そのようなことから万葉集での9首はすべて移ろいやすい男心と女心、
消え入るばかりの恋心の比喩として詠われています。

「 月草に 衣色どり 摺(す)らめども
    うつろふ色と 言ふが苦しさ 」 
                     巻7-1339 作者未詳


( 露草の花で着物を美しく染め、恋人に見せたいと思うのですが、
世間の人はあの人のことを「移ろいやすい人」だと言っています。
そのような噂を聞くのは辛いことです )

この歌は「草に寄す」という項目に分類されているので、月草に事寄せた恋の歌です。
即ち「衣色どり摺る」は「結婚したいと願う女の気持ち」、
「うつろふ色」は「移り気が多い男」を比喩しています。

女がある男を好きになった。 そしてその男から求婚された。
しかし世間の人々は「あの男は浮気者で女を次から次へと追いかけている」と噂している。
どうしょうかと悩んでいる乙女。


「 朝露に 咲きすさびたる 月草の
     日くたつなへに   消(け)ぬべく思ほゆ 」 
                           巻10-2281 作者未詳


( 朝露を浴びて咲きほこる露草は日が傾くとともに萎んでゆきます。
  私の心もその花と同じ。
  日が暮れるにつれて消え入るばかりに萎えてゆきます )

「咲きすさびたる」  「すさぶ」は思いのままに振る舞うので、ここでは
  ほしいままに咲き誇っている 
「日くたつ なへに」の「くたつ」は最盛期を過ぎ衰える 
「なへに」 ~するにつれて
太陽が西に落ちてゆく様子。

「今日は必ず行くよ」と約束してくれたあの人
胸をはずませて待っていたのに、いつまで経っても男は来ない。
寂しさと共に想いが募るばかりの可憐な女性です。


「 百(もも)に千(ち)に 人は言ふとも 月草の
         うつろふ心 我れ持ためやも 」 
                   巻12-3059 作者未詳


( あれやこれやと人は噂を言いふらしても、露草のような移り気な心を
 私は持つものですか )

「百千(ももち)」 は数が多いことで、あれやこれやと噂を立てられ
交際相手から「お前さん評判が良くないよ、浮気しているのではないのか」
と問い詰められ 「そんなことあるものですか」と答えたもの。
男女どちらの歌ともとれます。

「 露草の 瑠璃いちめんの 昼寝覚 」 木村燕城

化学が進歩した現在、褪せやすい露草の染料など、とうに無くなってしまったと
思いきや、逆にその性質を利用して友禅などの高級染物の下絵描きに用いられています。
園芸品種に改良された「オオボウシバナ」です、(露草は帽子花ともよばれている)
滋賀県草津市周辺で僅かに栽培されているのみですが、夏の土用のころに花を集めて
手で絞って濃い藍色の汁を採り、和紙にしみこませて藍紙を作ります。
染色の図柄の下絵を描くときにそれを水溶きして使用しますが、その色素は
染め付けたあと水洗いすると完全に消え、今日なおこれに代わる染料はないと
いわれる貴重な花なのです。

小石川植物園の一角に絶滅の恐れがある植物を育てながら保存している
コーナがあります。
ある夏の日、幸運にも満開の「オオボウシバナ」を見つけました。
初めてみる花でしたが、普通の露草よりはるかに大きく、色も鮮やかです。

「 露草や 月影待ちて 明けわたり」  呂暁
              
                    ※ ここでの月影は月の光

by uqrx74fd | 2013-09-13 16:49 | 植物

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