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万葉集その四百四十三 ( 韮 ニラ)

( ニラの花  佐倉市 )
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( 同上 )
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( 同上 )
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( 同上 )
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(同上  万葉植物園  奈良市 )
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( 芽出ししたばかりのニラ  同上 )
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「ニラ」は古代「ミラ」「ククミラ」とよばれた中国原産のユリ科の多年草です。
独特の匂いがあり、ニンニク、ネギ、ヒル、ラッキョウ、ネギとともに
「五葷(ごくん)」、つまり、「匂いの強い五種の野菜」の一つとされています。
  (葷は薫と同系の文字)

葉、茎はベーターカロチン、ビタミン類、カルシュウム、リン、鉄分など多く含み、
栄養価が極めて高い菜として通年栽培されていますが旬は
「韮茹でて あらたに春と 思ひけり 」 八十島祥子
とあるように早春が一番美味しいようです。

夏になると緑の葉の間から細長い花茎を出し、てっぺんに白い星形の6弁の
小花を沢山咲かせます。
横からみると白い毬のように見えて美しい。

万葉集では摘み取り作業の様子を伝えてくれる貴重な歌が1首残されています。

「 伎波都久(きはつく)の 岡の茎韮(くくみら) 我れ摘めど
   籠(こ)に満(み)たなふ 背なと摘まさね 」
                    巻14-3444 作者未詳(東歌)


( 伎波都久(きわつく)の 岡の茎韮(くくみら)、
  この韮を私はせっせと摘むんだけれど、ちっとも籠に
  いっぱいにならないわ。
  それじゃ、あんたのいい人と一緒にお摘みなさいな )

伎波都久(きはつく)は常陸の国(茨城)とする説もありますが、詳細は不明。
「ククミラ」の「クク」は「茎」、「茎が立った韮」の意です。

この歌の最後、「背なと摘まさね」は別の人間が囃し言葉として
唱和したらしく、茶摘み歌、草刈り歌などの原型をなす民謡と思われます。

春の野で楽しげに詠っている乙女たちが彷彿され、そこには、
収穫が多いことを願う気持ちも込められているのでしょう。

 
「 わが生(あ)れし 村に来りて 柔らかき 
     韮を食(は)むとき 思ほゆるかも 」 斎藤茂吉


古代の人たちは韮が強壮、強精、風邪予防、下痢、吐血に効果があることを
よく知っており、茹でたり、塩漬けにしたり、魚や貝の鱠(なます)の和え物にして
食べていたようです。
和え物は現在の分葱のヌタのようなものだったのでしょうか?

「 韮雑炊 煮ゆるを看(みと)る 如くをり 」   殿村菟絲子 

土鍋で看取るようにゆっくりと炊く。
ほどなくクツグツと音を立てはじめたところで韮を一杯入れ、さらに
弱火で炊き上げる。
お腹の調子が悪い時や二日酔いに最適の韮粥です。

「 韮 剪(き)つて 酒借りに行く 隣かな 」  正岡子規

子規は韮を好んだようですが、煎り卵を和え物にしたのでしょうか。
餃子、ニラレバ、ニラ卵、焼きそば、春巻きなど中華料理に多く使われている
ニラですが中國では餃子の具として使われることは少なく、ニラを使う場合は
「韮菜餃子」と称して区別されているそうです。

余談ながら、室町時代、「葱(ねぎ)」は「一文字(ひともじ)」,
「韮(にら)」は「二文字(ふたもじ)」とよばれていました。
「葱」は昔「き」とよばれたので一文字 「にら」は2字なので二文字(ふたもじ)。
宮中の女房言葉、一種の隠語です。

女房言葉には「おかか」(鰹の削り節)のように頭に「お」が付く場合と
「おめもじ」(お目にかかる)のように後ろに「もじ」が付く場合があり、
現在でも多く使われています。

 「韮の花 ひとかたまりや 月の下」  山口青邨

by uqrx74fd | 2013-09-28 15:06 | 植物

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