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万葉集その四百四十九( 水葱: なぎ)

( 水葱: なぎ  現代名  ミズアオイ : コナギ説もあり  明日香稲渕への道で)
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( 同上 )
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( 同上 春日大社神苑万葉植物園 )
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( ホテイアオイ  畝傍御陵前の近くで )
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( 同上 )
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水葱(ナギ)は田、沼、湿地などに生えるミズアオイ科の1年草で、8月から9月にかけて
紫色の可憐な花を咲かせます。
古くは染料にも用いられていましたが、今は絶滅危惧種に指定されている植物です。

「ナギ」はミズアオイの古名とされ、「水葱」の字を当てているのは、水中に生える
野菜の葱(ねぎ)の意で人々はその若葉を茹でて食用にしていました。

万葉集での水葱は4首。そのうち3首は「小水葱」(こなぎ)と表記され いずれも恋の歌です。

「 春霞 春日の里の 植ゑ小水葱(こなぎ)
    苗(なへ)なりと言ひし 枝(え)はさしにけむ 」 
                        巻3-407 大伴駿河麻呂


( 春日の里に植えられた可愛い水葱、いつぞやか、あの水葱は
  まだ苗だと言っておられましたが、もう枝も伸びて大きくなったことでしょうね )

作者は大伴坂上郎女に娘の二嬢(おといらつめ)を娶りたいと思い、小水葱を
娘に譬えて「幼かったお嬢さんはもう成長して大人びてこられたことでしょうね」と
暗に求婚をしたようです。
二嬢は大伴家持の妻、大嬢(おほおとめ)の妹にあたり、駿河麻呂と家持は
また従兄弟。
この求婚が成立したかどうか不明です。(多分不成立)

「植ゑ小水葱」は 食用に栽培されている水葱の意で「小」は愛称。
 

「 上つ毛野(かみつけの)  伊香保の沼に 植ゑ小水葱
    かく恋ひむとや  種求めけむ 」  巻14-3415 作者未詳(東歌)


( 上野の伊香保の沼に植えられたかわいい小水葱
  軽い気持ちで関係を持ったのに、こんなに恋煩いになるとは思わなかったよ)

「上つ毛野 」地名 現在の群馬県
「伊香保の沼」は榛名湖。
「種求めけむ」とは意味深長な表現ですが、文字通りと受け取っておきましょう。
「遊びのつもりだったのが本気になってしまったわい」と惚気ているのか、
相手の女から「子供が出来た」と結婚を迫られて困っているのか分かりませんが、
東歌らしい素朴な詠いぶりで民謡とも。

「 苗代の 小水葱が花を 衣(きぬ)に摺(す)り
    なるる まにまに あぜか愛(かな)しけ 」
                    巻14-3576 作者未詳(東歌)


( 苗代に交って咲く小水葱の花 そんな花でも着物に摺りつけ、
 着慣れるにつれて 肌合いがよくなり手放しがたくなるものだなぁ )

田舎の女と関係を重ねるうちに情が移った男。
「あぜか愛(かな)しけ」は「なぜか涙がでるくらい愛おしくなってしまった」の
意を含み、薄青紫色の花は初々しい女性を想像させます。

苗代に小水葱を植えると、稲の栄養分を吸い取ってしまうので禁忌と
されているそうです。
とすれば、関係を持ってはならない女性を暗示しているのかもしれません。
伊藤博氏は宴席での座興の歌とも解説されていますが天真爛漫な1首です。

「 夜が明けて 釣人のゐし 水葱(なぎ)の花 」 志賀青研

古代のコナギは現在のものより小さく、常に葉より低い位置でつつましく
咲いていたそうですが、今のミズアオイの花は大型で、葉より高く伸びあがって
咲いています。

また、同じミズアオイ科の植物にアメリカ原産のホテイアオイという植物があります。
池や溝などに浮遊して生え、葉柄の下部が膨らんでいるので布袋さんの腹に
似ているところからその名があるそうです。

近鉄畝傍御陵前から香具山に向かって歩いて10分位のところに本薬師寺跡と
伝えられている場所があります。
奈良の薬師寺が平城京に移る前の前身とされているところで、
今は狭い場所に礎石が残るのみですが、すぐ横にホテイアオイの群生池があり
うねび北小学校2年生の生徒が育てているそうです。
毎年見事な花を咲かせ、畝傍山を背景にした古代ハスとのコラボレーションは
素晴らしい光景を現出してくれています。

「 布袋草 咲き流さるる 風少し 」 鈴木半風子

by uqrx74fd | 2013-11-08 18:21 | 植物

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