万葉集その四百六十六(梅紀行:山の辺の道)

( 海柘榴市:つばいち観音 奈良県桜井市 )
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( 玄賓庵 ;:げんぴんあん )
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( 梅林に人影もなし )
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( たたなづく青垣の下を行く )
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( 蜜柑畑の中の一本の梅 )
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( 山茱萸 椿、梅、蜜柑 )
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( 川の上の白梅紅梅 )
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( 梅畑が少ない山辺の道 )
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( 間もなく石上神宮 農家の板壁が美しい )
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ひな祭りも過ぎ水が温む頃になると各地から梅便りが続々と届きはじめます。
梅の名所は数多(あまた)あり、それぞれに心惹かれるものがありますが、
見頃ともなれば観光バスを連ねて大勢の方が押し寄せるので、なかなか落ち着いて
愛でることができません。

人里離れたところでひっそりと咲く梅もよし。
野山や道端に立つ老木の風情も捨てがたい。
というわけで山の辺の道(奈良)を辿ることにしました。

JR桜井駅で下車し徒歩20分。
その昔、海外の使節が訪れたり、歌垣が行われて賑わったと伝えられる海柘榴市(つばいち)。
ここから天理に向かって約16㎞の観梅散策を始めます。

まだ肌寒いせいか人影がほとんど見当たりません。
路傍に「海柘榴市観音道」の石標があり、民家の間をぬって進むと奥に小さなお堂が
ひっそりと佇んでいました。
格子窓を通して拝するお堂の中には1500年代のものと伝えられる二体の小さな石仏が
安置されています。
「お客さん どちらからお見えですか」 と突然の呼びかけ。
後ろを振り向くと庭を掃除していた地元の管理人の方です。
親切にも「もしよろしければ鍵を開けますから中にお入りになりますか」
と聞いて下さいました。
何という幸運! 
何十年もこの地を訪れているのにお堂の中に入るのは初めてなのです。
喜び勇んで入堂させて戴くと、外からは暗くてよく見えなかった二体の仏様が
柔和なお顔で迎えて下さいました。
前の衝立には

「 ありがたや われらのねがひ かなやなる
        名も つば市の ここのみほとけ 」
と書かれています。

今は失われた「海柘榴市」という名を唯一残したみ仏なのです。
「かなやなる」はこの辺りの地名が金屋であることに由来します。
撮影の許可も戴き、管理人の方に幾重もお礼を申し上げ、
いよいよ梅探しの道を歩みます。

平等寺、大神神社へと進んでゆきますがなかなか梅に出合えません。
歩くこと20分、ようやく玄賓庵(げんぴんあん)の前の山林に数本、満開の花。
桜井駅から歩くこと約5㎞の地点でした。

「 馬並(な)めて 多賀の山辺を 白袴(しろたへ)に
     にほはしたるは 梅の花かも 」
                     巻10-1859 作者未詳

( 馬を勢揃いして手綱を手繰りながら、やってきた多賀の山辺を
      真っ白に染めているのは梅の花なのだろうか )

こちらは馬ならぬテクテク歩き。
多賀は京都府綴喜郡と推定されていますが多賀を「奈良の山辺」に置き換えると
今の雰囲気にピッタリの歌です。

脇道から急坂を上ると、5分ばかりで檜原神社。
目の前に桃と梅畑が広がっています。
桃にはまだ早いけれど梅は満開。
風が吹くと花びらが舞い上がり、まるで雪のようです。

「 春の野に 霧立ちわたり 降る雪と
     人の見るまで 梅の花散る 」 
              巻5-839  田氏真上(でんじのまかみ) (既出)

( 「 あれは春の野に霧が立ちこめて、真っ白に降る雪なのか」
    と皆が見まごうほどに、この野原に梅の花が散っていますよ。 )

紅梅の渡来は平安時代からとされているので万葉人の梅は白一色。
そのためか雪との取り合わせも多く詠われています。

檜原神社を過ぎると、遠くに山々が重なり「たたなづく青垣」。
細い山道を下ると農家の大きな家並みが続きます。

道脇の清流がさやさやと遠くの田畑に向かって流れ下り、庭先から散った梅の花びらを
運んでゆきました。

約1㎞ばかり歩き、標識に従って右に曲がると三輪山を背景にした野道へと導かれ、
周りの景色が一変します。
長閑な田園風景。
景行天皇陵、長岳寺へと向かう道の左側には金剛葛城山脈が霞んで見えます。

畑や山麓に梅が多くなり、何処からか鶯の鳴き声が聞こえてきました。
「ホーホケキョ」
声の方向に目を向けますが姿が見えません。
鶯は意外にも人にあまり近づかないようです。

「 春されば 木末(こぬれ)隠(がく)りて うぐひすぞ
    鳴きて去(い)ぬなる 梅が下枝(しづえ)に 」

        巻5-827 山氏若麻呂(さんじのわかまろ)

( 春がやってくると鶯が梢に隠れながら鳴きわたってゆく。
  梅の下枝あたりにでも飛び去ったのだろうか )

程なく長岳寺に到着。
躑躅と杜若(かきつばた)が有名な花の寺ですが、山門の前で梅が迎えてくれました。
早春の梅散策を十分に堪能した半日。
近くの蕎麦屋さんで一服した後、天理へと向かいます。

「 この道を われらが往くや 探梅行 」  高濱虚子
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by uqrx74fd | 2014-03-06 16:36 | 万葉の旅

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