万葉集その四百六十七(酒ほがひ)

(万葉列車 JR奈良駅で)
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( 長谷寺への参道の途中で  奈良 )
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( 吉野宮滝への道の途中で  奈良)
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( 明治神宮で )
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( 讃酒 大伴旅人  吉井東人作  県立奈良万葉文化館蔵 )
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「 わがが胸の 鼓(つづみ)のひびき たうたらたり
       たうたらたり 酔へば楽しき 」    吉井勇 「酒ほがひ」より


「酒祝」「酒寿」。
いずれも「酒ほがひ」と訓み「酒を賛える」意とされています。
「たふたらり」は祝詞や謡曲「翁」にも見られる囃言葉ですが、この歌は
「た」を一字追加して「たうたらたり」としたことにより「酔うた、酔うたぞ」と
美酒にに陶酔している様が彷彿されます。
作者は万葉きっての大酒飲み、大伴旅人の影響を受けたのでしょうか。

 「 あな醜(みにく) 賢(さか)しらをすと 酒飲まぬ
        人をよく見ば 猿にかも似む 」
                           巻3-344 大伴旅人(既出)

( あぁ、みっともない。
 酒も飲まずに賢そうにしている奴の顔をよ-く見たら
 ほらほら、猿に似ているぞ )

酒好きな上司が催す度々の酒宴。
「あぁ、迷惑だなぁ」と感じている酒嫌いの部下。
「まぁ、付き合えよ」と無理やり陪席させられたものの、素面(しらふ)で
理屈ばかりこねて周りを白けさせることおびただしい。
そんな人物を揶揄、風刺したものと思われますが、それは酒飲みの勝手な理屈。

永井路子さんは
『 なんですって!
  イケル口でない私としては、聞きずてにならぬ一言だ。
  じゃ、私は猿似人(さるにひと)だっていうの? 
  シツレイな!
  しかし怒る気になれないのは、彼の酒好きが あまりにも徹底しているからだ。』 

と苦笑しながらも楽しそう。(よみがえる万葉人 読売新聞社より)

「 博(ばく)うたず うま酒酌まず 汝等(なじら)みな
    日をいただけど 愚かなるかな 」      吉井 勇 酒ほがひ


( 刻苦勉励、学問、社業に身を入れ出世してもそれが何ほどのことがあろう。
  日頃の行いも真面目一筋。
  酒も飲まず、博打もせず、日々賢しらに人生を重ねる愚かなる君よ。)

旅人の歌を本歌取りしたような詠いっぷりです。
対する正岡子規は皮肉たっぷり。

「 世の人は さかしらをすと 酒飲みぬ
    あ(我)れは柿食ひて 猿にかも似る 」  正岡子規

 まぁ、こうやって酒飲みも、下戸もワイワイやりながら楽しんでいるのですね。

「酒を賛める歌13首」を詠んだ大伴旅人は当時、大宰府の帥(そち:長官)として
都から遠く離れた鄙の地にありました。
藤原氏の策謀で天皇から遠ざけられたともいわれています。
後ろ盾と期待した長屋王が謀反というあらぬ疑いで自刃に追い込まれ、
孤立無援の大伴一族は衰退の一途。
寄る年波と衰弱、堪えがたいまでの奈良への望郷、加えて同伴した妻の急死。

このような環境の中で詠われた讃酒の歌。
それは、寂しさや苦しさを酒で一時紛らわすといった女々しい気持ちというより
「よ-し、それならば世俗を離れた世界で徹底的に生きよう」
と開き直った心境が感じられるのです。

「 黙居(もだを)りて 賢しらするは 酒飲みて
    酔ひ泣きするに なほ及(し)かずけり 」 
                       巻3-350 大伴旅人

( 黙りこくって分別くさく振る舞うなんてつまらない。
  悲しい時は、酒を飲んで酔い泣きするにかぎるよ )

旅人が残りの人生のすべてをかけたのは酒、歌、女。
酔い泣きするほどに痛飲を楽しみ、人生を謳歌しょうと腹を決めた旅人に
新たな作品が生まれはじめました。
中國詩文や伝説を下地にしたもの、花鳥風月の世界、画期的な歌会梅花の宴、等々。
後世、筑紫文壇とよばれる文藝の世界を築き上げていったのです。

次の歌は夢の中で出会った梅の精に話しかけられたという幻想的な一首です。

「 梅の花 夢(いめ)に語らく いたづらに
     我(あ)れを散らすな  酒に浮かべこそ 」 巻5-852 大伴旅人

( 梅の花が夢の中で私にこう語ったのです。
  「 私を空しく散らさないで下さい。 
    どうかあなたさまがお飲みになる酒杯の上に浮かべて下さいね」と )

文学の世界に陶酔している作者。
梅の花を女性に置き換えるとさらに濃艶なものになります。
同じ酒の歌ながら なんという明るさなのでしょうか。

なお、この歌は同番号の
「 梅の花 夢(いめ)に語らく みやびたる
       花と我(あ)れ思(も)ふ 酒に浮かべこそ 」
の別歌として付記されているものです。

63歳の旅人。
人生50年の時代では既に後期高齢者の仲間入りでしょうが、益々意気盛んです。
女性関係も抜かりなく、歌に秀でた若くて美しい女性を友(愛人?)として
優雅な生活を送り、3年後に目出度く念願の都に栄転することになります。

「 老の頬に 紅潮(くれなひ さ)すや 濁り酒 」  高濱虚子
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by uqrx74fd | 2014-03-13 08:03 | 生活

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