万葉集その四百七十(あをによし 奈良)

( 大極殿  平城宮跡 )
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(  同上 )
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( 朱雀門  同上 )
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( 高御座:たかみくら 大極殿内部  同上 )
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( 咲く花にほふ 大仏殿 )
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( 春日大社の青丹 )
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( 氷室神社の枝垂桜 )
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( 東大寺湯屋の近くで )
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( 二月堂 )
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「 あをによし 奈良の都は 咲く花の
   にほふがごとく 今盛りなり 」 
              巻3-328 小野 老(おゆ) (既出) 
 

この著名な歌は奈良で詠われたものではなく、叙勲の為に都へ赴いた作者が大宰府に
帰任し祝宴が設けられた折、豪華絢爛たる首都の様子を列席の人たちに語ったものです。

作者が得意げに報告している都は、大極殿、朱雀門に代表される瓦葺の大屋根、
丹塗りの太い柱に白壁といった豪壮かつ美しい建物や緑に彩られた連子格子。
さらに、幅74mにもおよぶ朱雀大路を中心に碁盤目のように整然と区画された
街の様子なのでしょう。

「咲く花」は一般的には花の総称とされますが、この歌にはやはり桜が相応しく、
満開の花が照り映える中、微かな芳香さえ漂っているイメージを醸し出している
ように思われます。

枕詞「あをによし」の「あをに」は「青丹」で彩色に用いられる土。
「よ」「し」は本来、文章の語句の切れ目で語勢を加え、語調を整えて余情を添える
間頭助詞ですが、原文表記の半数が「吉(よし)」とされていることから
「青や丹が吉(よ)い」の意を含むものとされています。
従って「あをによし 奈良」は「良質の青丹土の産地として名高い奈良」の意を含み、
青緑や朱色で彩られた華やかな都の様子を彷彿させています。

四方を山々に囲まれた奈良の都。
目を野山に転ずれば次のような風景が見られたようです。

「- 奈良の都は かぎろひの 春にしなれば
春日山 御笠の野辺(のへ)に
桜花 木(こ)の暗(くれ) 隠(がく)り  
貌鳥(かほどり)は 間なくしば鳴く - -
山見れば 山を見が欲し 
里見れば 里も住みよし - 」 
            巻6-1047  田辺福麻呂(たのべのさきまろ)歌集


( 奈良の都は 陽炎の燃える春ともなると 
 春日山の麓 御笠の野辺で
 桜の花の木陰に隠れて 
 貌鳥(かほどり)が絶え間なく鳴きたてる。- -

 山を見れば見飽きることがないし、
 里を見れば里も住み心地が良い- )

この歌は春秋対になっており、そのあとに、

「 露が冷たく置く秋ともなると、
  生駒山の飛び火が岳で、
  萩の枝をからませ散らして
  雄鹿が妻を呼び求めて 声高く鳴く 」と詠われ、

花咲き、鳥や鹿が鳴く美しい自然の移り変わりを人々が謳歌していた様が
窺われます。
貌鳥(かほどり)は「カッコウ」「カワセミ」など諸説あり定まっておりませんが
この歌には美しいカワセミを登場させたいところです。

「 あをによし 奈良の大道(おほち)は 行(ゆ)きよけど
      この山道は 行(ゆ)き悪(あ)し かりけり 」
                        巻15-3728 中臣宅守(やかもり)


( あをによし奈良、あの都大路は行きやすいけれど、
 遠い国へのこの山道はなんとまぁ、行きづらいことか )

740年、勅勘の身となって越前の国府武生に配流された作者。
罪を得た原因は不明ですが政治事件に巻き込まれたものと想像されています。

東宮に所属する女官と結婚したばかりの宅守。
悲しみにくれながらトボトボと山道を越えてゆきます。
険しい急坂の上、岩がゴロゴロ。
あの華やかな都大路と比べて何という違いなのだろう。
場所は畿内と北の国との境、逢阪山あたりにさしかかったあたり。
故郷を見納めつつ若妻との別れを悲しんだ1首です。

「 あをによし 奈良の都は 古りぬれど
    もとほととぎす 鳴かずあらなくに 」
                    巻17-3919 大伴家持

( ここ青土の奈良の都は、いまやもの古りてしまった。
 でも、昔馴染みのほととぎす、この鳥だけは鳴きたてないまま
 飛び去ったりしないでやってきてくれるのに。
 人の心はあてにならないものよ )

都が平城京から山背(やましろ)の国(京都)、恭仁京に遷された後、
休暇を賜った作者が奈良の邸宅に戻った時の歌です。
荒れ果てて、誰も見向きもしなくなった旧都。
ホトトギズでさえ戻って鳴いてくれているのに、と嘆きながら、
過ぎにし華やかな日々を懐かしんでいる作者。

「 あをによし 奈良の都に たなびける
     天の白雲 見れど飽かぬかも 」
               巻15-3602 作者未詳

新羅に派遣された官人が故郷を懐かしんで口ずさんだ歌ですが、
どの場所でも通用する1首です。

都に住んでいた人たちは遠くへ旅したり、遷都になった後でも
美しい奈良の自然と建物を懐かしみ「あをによし 奈良」と詠い続けました。
一つの場所でこれほど多く枕詞を使われた例は他にありません。(27例)
万葉人にとっての奈良は心の故郷だったのでしょう。

    「 青丹よし 奈良の都の 連子窓 」  筆者
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by uqrx74fd | 2014-04-05 20:29 | 生活

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