万葉集その四百七十二(桜、すみれ、乙女)

( ニオイスミレ  学友N.Fさん提供)
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( 桜の木の洞に咲いたスミレ  新宿御苑で)
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( 長谷寺  奈良 )
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( 同上 )
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( 大美和の杜から大和三山をのぞむ  山辺の道  )
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(  大美和の杜  満開の桜)
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( 同上 後方、三輪山)
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( 石庭に埋め込まれた桜の花びら  玄賓庵 山辺の道)
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( 万葉の春 上村松篁  絵葉書 )
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747年頃のことです。
越中国司 大伴家持が生死をさまよう大病を患いました。
慣れない北国の寒さで風邪をこじらせ肺炎になったのではないかと推察されています。
床に臥すこと約2カ月、ようやく起き上れるまでに回復しましたが、いまだに
外出は困難な状態。
それでも手紙を書く気力が出てきたのか、年来の友、大伴池主に見舞いの礼状を
書きはじめ、何通ものやり取りをするうちに、お互いに作文作歌に熱中し、
とうとう漢文交じりの膨大なものになってしまいました。
二人は歌を通じた心友といった関係。
家持も心を許して真情を吐露することができたのでしょう。

以下池主の歌のごく一部ですが、
「 一日も早く回復され、美しい春の景色を共に愛でに行きましょう 」
と手を尽くして励ましている部分です。
先ずは訳文から

( 訳文 )

( ― 里の人が 私に教えてくれるには
   山辺に 桜の花が咲き散り
   貌鳥(かほどり)がひきもきらずに 鳴き立てているということです。

  その春の野で すみれを摘みましょうと
   真っ白な袖を折り返し
   色鮮やかな赤裳の裾を引きながら
   乙女たちは
   思い乱れつつ
   あなたのお出ましを心待ちに 待ち焦がれているというのです

  そう聞くと心が切なくなるでしょう。
  さぁ 早く一緒に見にゆきましょう
  その事は、しっかと お約束しましたぞ。 ) 

                           巻17-3973 大伴池主

( 訓み下し文 )              ( 右 語句解釈)

「 - 里人の 我(あ)れに告ぐらく 
    山びには 桜花散り            「山び」: 山辺

   貌鳥(かほどり)の 間なくしば鳴く    「貌鳥(かほどり)」:  
                             カッコウ、カワセミなど諸説あるも定まらず。
                             「カオ」と鳴く鳥の総称ともされる。
  春の野の すみれを摘むと
  白栲(しろたへ)の 袖折り返(かへ)し   
                            「袖折り返し」: 袖口が汚れないように折り返し

  紅の 赤裳(あかも)裾引(すそび)き 
  娘子(をとめ)らは 思ひ乱れて 

  君待つと うら恋(ごひ)すなり    「うら恋」: 心の中で秘かに恋焦がれること
 
  心ぐし いざ見にゆかな     
                        「心ぐし」: (乙女らが待っていると聞くと) 心が切なくなる

   ことは たなゆひ 」 
                           「こと(事)はたなゆひ」 : 
                           「指切りげんまん 約束ですぞ」の意で
                           約束をしたときの慣用句らしい。

                               巻17-3973  大伴池主
 
 
 長かった北国の冬が去り、待望の春到来。
 桜咲き、散る山辺、
 絶え間なく、しきりに鳴く貌鳥(かほどり)、
 野原一面のスミレ、
 美しい乙女の艶(あで)やかな衣装。
 浮き浮きとした気持ちが感じられる一節で、「春の野のすみれ摘む」は

 山辺赤人の「 春の野に すみれ摘みにと 来し我れぞ
             野をなつかしみ 一夜寝にける 」 巻8の1424  
を踏まえたものです。
女性の赤い裳裾は男心をそそり、幻想的な世界を想像させています。
今にでもすぐに飛び立ちたい!
池主もその効果を十分意識して家持を奮い立たせたものと思われます。

持つべきは友。
この見舞いを受けた家持は、ほどなく全快。
早速、うら若き乙女と共に行く春を楽しんだことでしょう。

 「 桜花 ちりしく野べの つぼすみれ
     色うちはへて 摘(つみ)なむも をし 」 田安宗武

               色うちはえて :色うち映えて
               をし:惜しい 
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by uqrx74fd | 2014-04-18 06:59 | 生活

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