万葉集その四百七十九(卯の花)

(ウツギ=卯の花  小石川植物園)
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( 同上 )
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( 同上 )
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( シロバナヤエウツギ  同上 )
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( ヒメウツギ  長谷寺 奈良 )
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( 同上 )
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( 梅花ウツギ  飛鳥寺 奈良 )
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( 同上 )
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桜の季節が過ぎ青葉が目にしむ頃になると、山野のあちらこちらで清楚な白い小花を
密集させた卯の花が咲きだします。
初夏を告げ、ホトトギスが垣根に飛び来て、しのび音をもらす花として歌われ、
北は北海道から南は九州に自生し今は空木(ウツギ)とよばれている落葉低木です。
折口信夫氏は
「 この花はその年の稲の豊凶を占う花で、山野に長く咲く年は豊作
長雨続きで花が少ないか、あるいは早く散るときは凶作と信じられた」(花と民俗)
と云われていますが、卯の花の蕾が米に似ているからなのでしょうか。

空木(うつぎ)とは木の中が空洞であるためその名があるといわれていますが、
材質が固いので古くから木釘や杖、槌などに加工されました。
特に杖は卯杖とよばれ、田植え前の豊作を祈る神事で農事を妨げる土地の精霊を
追い払うために地面を打つのに用いられる神具としての役目を担っていました。

またホトトギスも田植えの時期を知らせる鳥としてその初音が重んじられ、
万葉集で卯の花が24首登場するうち18首がホトトギスとともに詠われています。

「 ほととぎす 鳴く声聞くや 卯の花の
   咲き散る丘に 葛引く娘子(をとめ) 」 
                    巻10-1942 作者未詳


( 卯の花が咲き散っている丘で
 葛を引いている娘さん、
 この辺りでホトトギスの声を聞きませんでしたか?)

 
ホトトギスの声を求めて卯の花が咲いている丘を散策していた作者が
葛の根を引っ張り上げながら働いている娘に
「 ホトトギスの声を聴いたかい」と尋ねています。

娘は葛の根から繊維を取りだし布を織ったり、葛粉を採る作業に従事していたと
思われますが、葛の根は土の奥深くまで潜っているので引っ張り上げるのは
かなりの重労働です。
どのように答えたのかは分かりませんがホトトギス、卯の花、葛掘り、乙女の
取り合わせは初夏の爽やかな季節を感じさせてくれます。

「 朝霧の 八重山越えて ほととぎす
   卯の花辺(はなへ)から 鳴きて越え来ぬ 」 
                        巻10-1945 作者未詳


( 朝霧が立ちこめる幾重にも重なる山々を越え、
  卯の花が咲いている辺りも飛び越えて
  ホトトギスガ鳴き立てながら、おらが里にやって来たよ。)

  
待ちに待ったホトトギスの初音を聴いた歓び。
万葉人は余程この鳥が好きだったのでしょう。
懐旧の情をかきたて、恋の仲立ち役を務め、鶯の托卵を引き受けるなど
大忙しのホトトギス。
万葉集では155首もの歌が詠われています。

「 春されば 卯の花ぐたし 我が越えし
     妹が垣間(かきま)は 荒れにけるかも 」
                        巻10-1899 作者未詳



( 春になると卯の花の生垣を傷めながら潜り抜けてあの子の許に通ったものだが
  今見ると雑草が生い茂り、すっかり荒れ果ててしまっていることよ )

卯の花の垣根の間を潜り抜けて、ひそかに通った女の家。
今は荒れ放題になり様変わりしてしまった。
男は長旅でこの地を離れていたのか、あるいは、初恋の地に立ち、
遠い昔を偲んでいるのでしょうか。

卯の花の生垣が文献に見える最古の歌です。

「 卯の花を 腐す長雨(ながめ)の 水始(みずはな)に
    寄る木屑(こつみ)なす  寄らむ子もがも」 
                      巻19-4217   大伴家持(既出)


( 卯の花を痛める長雨で水かさが多くなった川、その流れの先に木の屑が
  いっぱい集まっていますよ。
  このような木屑のように私のところに美しい女性が集まってくれたらいいのになぁ)

水始(みずはな): 水量の増した流れの先端のこと

この歌から後々「卯の花腐(くだ)し」という夏の季語が生まれました。
陰暦の4月頃の長雨のことで

「 山に咲く 卯の花腐つ 雨ならん」  高木晴子

などと詠まれています。

卯の花の 匂う垣根に   
ほととぎす 早も来鳴きて
忍音もらす  夏は来ぬ      

五月(さつき)やみ 蛍とびかひ
くいな鳴き  卯の花咲きて
早苗うえわたす 夏は来ぬ 
                  「 夏は来ぬ より 佐々木信綱作詞 小山作之助作曲」


この歌の1番は江戸時代の歌人、加納諸平(かのう もろひら)の

「 山里は 卯の花垣の ひまをあらみ 
            忍び音洩らす ほととぎすかな 」

の歌を下敷きとして作られたといわれています。
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by uqrx74fd | 2014-06-06 07:29 | 植物

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