万葉集その四百八十三(古代蓮)

(大賀蓮   千葉公園)
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( 同上 )
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( 古代蓮 藤原京で   )
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( 同上  後方 畝傍山 )
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( 同上  後方 天の香具山 )
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( 藤原京手前 本薬師寺跡近くで 後方ミズアオイの群生 )
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( 万葉人が好んだ水滴  )
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(  田んぼの中で咲く蓮 )
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( 花、蕾、花後と3つ揃った  昭和記念公園 東京 )
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( 深大寺で  東京 )
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我国で蓮が文献に登場するのは古事記の次の話の中の歌謡とされています。

『 その昔、雄略天皇が大和の初瀬川で洗濯していた美しい乙女に出会い、
 「そのうちに召し出すから嫁がずにおれ」と云って帰り、そのまま忘れてしまった。
純情な娘は今か今かと待ち続けとうとう80歳に。
すっかり老い衰えた女はその一途な心だけは知って欲しいと宮中に参上したところ
天皇は
「そなたが志を守り我が言葉を待ち続けて、いたずらに身の盛りの年ごろを
 過ごしてしまったというのは誠に愛しく申し訳ないことだ。
 我が心の中では抱き合いたいと思ってもお互いこの年ではのう」と
謝ったところ老女は涙を流して

「 日下江(くさかえ)の 入江の蓮(はちす) 花蓮(はなはちす)
      身の盛り人 羨(とも)しきろかも 」


( 日下江の入江、その入り江に咲く蓮よ
  花の咲いた蓮に似た 女身の盛りの人たちは なんと美しいこと
  あの人たちが羨ましいことでございます )

と詠ったというのです。
なんとも長閑なお話。花蓮は美人の代名詞だったのですね。

蓮はインド原産とされていますが我国でも2万年前の化石が出土しており自生説も
あります。
昭和26年、大賀一郎博士が千葉市検見川の泥炭層から3個の蓮の実を発見され、
分析調査の結果2千年前のものと分かり大ニユースとなりました。
さらに大変な苦労の末、一つの実を発芽させて生育することに成功し、遂に
美しい紅色大輪の花を咲かせたのです。
まさに奇跡としか言いようがない快挙でした。
「大賀ハス」と命名されたこの蓮は、その後株分けをしながら日本各地で
繁殖を続けていますが、その驚異的な生命力には驚かされます。

なお、大賀博士は他種との交配を避けるため新潟県十日市山奥の「二つ屋弁天池」にも
移植され、今なお発見当時の純粋な種を保っているそうです。

万葉集での蓮は4首。
不思議なことに花の美しさを讃えた歌は1首もありません。

「 ひさかたの雨も降らぬか 蓮葉(はちすば)に
    溜まれる水の 玉に似たる見む 」  巻16-3837 (既出)
                          右兵衛府の官人(禁中の警備や行事を司る役人)


( 空から雨でも降ってこないものかなぁ。
 蓮の葉に溜まった水が玉のように光るのが見たいものです。) 

蓮の葉に溜まった水滴はキラキラと光り得も言われぬ美しさです。
この歌の後に註があり、
「 或る役所で酒席がふるまわれ、御馳走はすべて蓮の葉に盛られていた。
  飲めや歌えの宴たけなわになり、周りから洒落歌が上手な作者に蓮を
  折りこんだ歌を詠めと囃したてた。
  そこですぐさまこの歌を披露したという 」

とすれば、この歌は単に玉のような水滴を詠ったのではなく、
「溜まれる水」は美女の真珠のような涙を暗示していると思われます。
「男ゆえに泣く女が見たいなぁ」というわけです。
それぞれの人の前に蓮の葉があり、各々が
「 あぁ、そんな優しくて美しい女性が横に居てくれたらなぁ」と思ったことでしょう。

「 蓮葉(はちすば)は かくこそあるもの 意吉麻呂(おきまろ)が
   家にあるものは 芋(うも)の葉にあらし 」

           巻16-3826 長忌寸(ながのいみき)意吉麻呂 (既出)


( これが本物の蓮の葉なのですなぁ。なんと豪華なことよ! それに比べて
 わが家にあるのは似ているようでもやっぱり里芋の葉ですわい。)

作者は愉快な歌、戯れ歌を即興的に詠むのを得意としていました。
宴席で大皿の代わりに蓮の大きな葉に盛られた豪華なご馳走を褒める気持も込めて
大げさに驚いてみせ、我家の小さな芋の葉を卑下してみせたものですが、
蓮と里芋の葉の形が似ているところにこの歌の面白みがあります。

古代、蓮の花は高貴な美女の象徴とされていました。
宴席には主人の妻妃などが接待に出ていたかもしれません。
もしそうだとすれば「イモ」は「妹」を連想させ「素晴らしい女性ばかりですね。
それに比べて我が家の妹(イモ)は野暮ったくて何とも見栄えがしないことです」と
落胆したふりをして満場をどっと沸かせたのでしょう。
奈良時代の貴族達の華やかな歓楽の一幕です。

蓮は開花するときに「ポン」と音がすると言われていますが、色々な実験の結果、
確認出来ないようです。
早朝の4時頃から咲き始め午後には花を閉じ開花後4日目には散り落ちますが、
花が一番美しく、香りがよいのは開花2日目の朝7時~9時頃までと言われています。

蓮は原産地とされるインドで古今を通じ最も清らかで美しく豊かでかつ神聖な植物として
尊ばれてきました。
釈迦が妙法蓮華経を説き始め、衆生救済の妙法を蓮華に例えられると人々は
蓮の花を仏前に供え、その実を数珠にしてひたすら念じるようになります。

わが国でも万葉時代に恋の歌の仲立ちをつとめた蓮は平安時代から次第に
仏教色が強くなってきたことが枕草子からも窺えます。

「 蓮の浮葉の らうたげにて 長閑(のどか)に澄める池の面(おもて)に 
  大きなると小(ち)ひさきと 広ごり ただよひて歩りく。
  いとおかし。
 - 妙法蓮華のたとへにも 花は仏に奉り、実は珠数(ずず)に貫き念仏して
  往生極楽の縁とすればよ。
  また、花無き頃 緑なる池の水に、紅に咲きたるも いとおかし 」
                                     ( 枕草子54段 草は )


( 蓮の浮いている葉がかわいらしげで、静かに澄んだ池の面に大きなのと小さいのとが
 広がってただよって動くのが、大そう面白い。-
 妙法蓮華経の教えの中にも、花は仏に奉り、実は数珠に貫いて、念仏を唱えて
 極楽往生を遂げる因縁ともするならば、結構なことです。
 また、一般の花がない頃に、青い池の上に紅に花が美しく咲いたのも大変趣があります)

   「 明け方や 水も動かず 蓮匂ふ 」  大魯

早起きして大賀ハスの発祥地とされる千葉公園へ。
大輪の紅の花。
一陣の爽やかな風が芳しい香りを漂わせてくれました。
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by uqrx74fd | 2014-07-04 06:58 | 植物

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