万葉集その四百九十二 (秋津)

( アキアカネ  学友 M.I さん提供 )
b0162728_63023.jpg

(  同上 )
b0162728_6294937.jpg

( 吉野離宮跡  後方 象山:きさやま  奈良県 )
b0162728_6293340.jpg

( 宮滝遺跡関連図    画面をクリックすると拡大できます ) )
b0162728_6291872.jpg

( 宮滝  奈良県 吉野 )
b0162728_629429.jpg

( 吉野川  後方 象山 )
b0162728_6284367.jpg

( 蜻蛉:せいれい の滝  奈良県 吉野   学友 Nさん提供 )
b0162728_6282841.jpg

(  同上   学友Nさん提供  )
b0162728_6281043.jpg

(  同上     筆者撮影  )
b0162728_6275051.jpg

「秋津」はもともと蜻蛉(トンボ)を意味し、その語源は「秋に多くいづる」が縮まったものとされています。
古代、田の収穫前に多く群れ飛ぶのは豊作のしるし。
聖霊として大切にされた蜻蛉はやがて豊かな実りを表す大地「蜻蛉島(あきづしま)大和の国」と詠われ、
のちに日本国全体を象徴する「秋津島」へと変化してゆきます。

日本書紀によると神武天皇が国見をしながら
「蜻蛉(あきづ)の臀呫(となめ)の如くにあるかな」と言われたそうです。
「臀呫」とは「とんぼ」の雄雌が尾をくわえ合い、輪を作って交尾をする様子を
いいますが、蜻蛉の大群を見ながら国土の豊穣を予祝されたのでしょう。

万葉集では「秋津島」「秋津野」「あきづの宮」などと詠われ、動物そのものを
詠ったものは1首もありませんが、蜻蛉の羽を女性の薄い衣類に見立てたものがあります。 

「  あきづ羽(は)の 袖振る 妹を  玉櫛笥(たまくしげ) 
    奥に思ふを 見たまへ 我(あ)が君 」    
                               巻3-376 湯原王(既出)

( 我が君よ、 向こうに蜻蛉の翅のような薄い衣の袖を翻しながら
  舞っている美女がおりますでしょう。
  実はあの舞姫は私のとっておきの想い者なのですよ。
  ゆっくり ご覧になって舞を楽しんで下さい )

この歌は宴席での即興歌で、深窓の美女を主賓のために特別に舞わせて
歓待の意を表わしたものです。
「君」とよばれた人物は越前国守、石上乙麻呂 (いそのかみ おとまろ) とも。
玉櫛笥(たまくしげ)は美しい化粧箱のことですが、ここでは奥に掛かる枕詞に使われています。
大切に奥にしまっている箱と心の奥深くで女性を想う意を掛けたものです。

「 み吉野の 秋津の小野に 刈る草(かや)の
     思ひ乱れて 寝(ぬ)る夜しぞ多き 」 
                      巻 12-3065  作者未詳

(  み吉野の秋津の小野で刈った萱が乱れるように、私の心も思い乱れて
  独り寝る夜が幾晩も続いていることよ )
  「秋津の小野」は吉野の宮滝付近で萱の産地だったようです。

その昔、雄略天皇がこの地で狩猟されたときのことです。
自ら獲物を射ようとしたところ、突然大きなアブ(虻)が飛んできて天皇の肘を噛みました。
すると、何処からともなく蜻蛉が現れてその虻を噛み殺したので、
天皇が大いに褒めたたえ、これよりこの地を蜻蛉野(あきつの)とよぶ様に仰せられたといいます。

この故事の名に因んだ「蜻蛉(せいれい)の滝」という名所があり、
現在の奈良県吉野郡川上村、この辺り一帯が万葉集で詠われた「秋津の小野」とされています。

滝は高さ50m、岸壁の黒さと水しぶきの対比が美しく、飛沫は太陽に映じて虹を
つくることから虹光(にじっこう)ともよばれ、写真家が狙う穴場だそうです。

「 ほろほろと 山吹散るか 滝の音 」  芭蕉

吉野紀行でこの地を訪れた折の句。 
轟轟と響く滝の音、盛りを過ぎた山吹が風を待たずにほろほろと散っている。

山本健吉氏は次のように解説されています。

『 滝の音の強さ、大きさに対して、山吹の花を、その弱さ、細みにおいて捉え
それが「ほろほろと」であった。
芭蕉は音だけを描き、散る山吹の細みを書き添えることで滝の存在感を浮かび出させた』
                                      ( 花鳥一歳 文芸春秋社)

私たちが訪れた時は,残念ながら虹を見ることが出来ませんでしたが、
轟轟と鳴り響きながら落下する滝の音に身も心も洗わるような清々しさを感じたことでした。

  「 とどまれば あたりにふゆる 蜻蛉かな 」  中村汀女

「ふゆる」は「増える」
赤蜻蛉でしょうか。
歩を止めて、ふと上を見ると青空の下に群れ集まっている。
このような風景も少なくなってきた日本の秋。
[PR]

by uqrx74fd | 2014-09-05 06:31 | 万葉の旅

<< 万葉集その四百九十三 (月読み...    万葉集その四百九十一 (夢のわだ) >>